秋道智彌・角南篤編著『シリーズ海と人の関係学① 日本人が魚を食べ続けるために』西日本出版社、2019年2月23日、261頁、1600円+税、ISBN978-4-908443-37-4
帯に「いま日本の魚食があぶない」と大書されている。「日本人はいつまで魚を食べられるのかという問いへのこたえは二つある」という。もはや肯定的に答えるためには、積極的にかかわらなければ、もうひとつの否定的な答えになるというのか。
本シリーズ「海と人の関係学」は、つぎのような意図をもって企画された。「海洋に関するさまざまな問題を議論するガイドラインを広く読者に喚起することを大きなねらいとして企画されたものである。海とヒトとのかかわりは、有史以来の長い歴史をもつ。しかも、その関係性は生業と食から社会、文化、政治、環境問題、信仰に至るまでじつに重層的である」。
「海はヒトに数々の恩恵をあたえてきたが、同時に由々しい災禍をももたらしてきた。局所的な不幸は過去に何度も発生したが、二一世紀に至り、海の病理は地球全体に蔓延するようになった。未曽有の海の危機がヒトそのものに襲いかかろうとしているのである。温暖化、海面水温の上昇、水産資源の減少、海洋汚染などに顕著な海の劣化を克服する知恵がいまこそ求められている。地域の問題から地球全体までを見据え、よりよい未来に向けて有効な方策をいまこそ具体化すべき時にある。本シリーズで取り上げる諸テーマは、海とヒトとののぞましいかかわりを実現する手引きとなることを目指して選定されたものである。読者とともに地球の危機とその克服について深く考える契機としたい」。
その第1巻として、「私たちはいつまで魚を食べられるか」を問いかけ、目的をつぎのように述べている。「本書では国際的に合意された持続可能な発展がもつ問題点を指摘しながら、海の未来に向けての提言を魚食に関する諸問題から解き明かすことを最大のねらいとしている。かといって、切迫した論を進めることにこだわる必要はない。変動する海の生態と経済の動向のかかわりを柔軟にとらえる順応的な観点に配慮した議論を望みたい。さらに、地域、国、国際間で起こっていることへの内省から、現場に即した議論をもとに新たな提案を試みる視座に立脚したい。そして、魚食の未来を自然から経済、文化、漁業権・IUU漁業[違法、無報告、無規制漁業]・地域振興などを含む複雑系の現象としてとらえる視点を共有したい」。
本書は、はじめに「転換期をむかえる魚食」、3章全13論考、9コラム、おわりに「魚食大国の復権のために」、用語集からなる。「おわりに」の冒頭で、2人の編著者は、つぎのように結論を述べている。「今後、日本および世界の魚食についてどのような見通しがあり、魚食大国を復権するうえでどのような方策があるのかについて検討しよう。ここでは、具体的な方策を五つあげて個別に検討し、異分野連携を通じた施策を政策対応の指針として提言してみたい。利害関係者間の連携を進めるうえでの調整機能を誰が担うか、その資金調達をどうするか。本書はこの議論の火付け役として一定の役割を果たしたいと考えている」。
5つの方策とは、「漁業資源の多様性と管理」「資源管理とコモンズ論」「世界のなかの日本の魚食」「食育から未来の魚食を占う」「食の安全とグローバル化時代のIUU問題」である。
本書は、笹川平和財団政策研究所が2000年から発行している『Ocean Newsletter』に、2004-16年に収録されたものから選ばれたものを元にしている。本シリーズでは、すでに2「海の生物多様性を守るために」(2019年)、3「海はだれのものか」(2020年)、4「疫病と海」(2021年)が出版されている。
評者、早瀬晋三の最近の著書・編著書
早瀬晋三『東南アジアのスポーツ・ナショナリズム-SEAP GAMES/SEA GAMES 1959-2019年』めこん、2020年、383頁、4000円+税、ISBN978-4-8396-0322-9
早瀬晋三『グローバル化する靖国問題-東南アジアからの問い』岩波現代全書、2018年、224+22頁、2200円+税、ISBN978-4-00-029213-9
早瀬晋三編『復刻版 南洋協会発行雑誌-『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』-』(龍溪書舎、2021年4月~)全30巻+『南洋協会発行雑誌(『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』1915~44年) 解説・総目録・索引(執筆者・人名・地名・事項)』(龍溪書舎、2018年1月)全2巻。
早瀬晋三編『復刻版 ボルネオ新聞』龍渓書舎、2018~19年、全13巻+『復刻版 ボルネオ新聞(1942~45年) 解題・総目録・索引(人名・地名・事項)』龍渓書舎、2019年、471頁。
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