早瀬晋三書評ブログ2018年から

紀伊國屋書店「書評空間」https://booklog.kinokuniya.co.jp/archive/category/早瀬晋三に2005~15年に掲載された続きです。2015~18年に掲載されたものはseesaaブログshohyobloghayase.seesaa.net/ で閲覧できます。

秋道智彌『海神と霊性』法蔵館、2026年1月30日、319+4頁、2800円+税、ISBN978-4-8318-5745-3

 巻末の「文献一覧」は22頁にわたっており、その多くが本文中に参照されている。つまり本書は、先行文献を精査しながら、全体像を描き出している。

 本書は、「はじめに-海神と霊性を問う」、全9章、第10章「おわりに」、などからなる。「はじめに」冒頭で、「本書は「霊性」を中心に据えて海神について論じるものである」とある。「海神」には「かいしん」とルビが振ってある。つづけて、「1 人類の思想史における海神と霊性」で、つぎのように説明している。「海神は「海の神」を指すが、日本では綿津見神、住吉神、宗像三女神、エビス神などが馴染みあるだろう。本書では、それら以外の海の神がみを包摂するものとして海神の用語を用いる。そして、海にかかわる霊性の問題を通じて、海神のもつ思想的な意味を明らかにしたい」。

 「では、人類が育んできた海の神がみと霊性とは何なのか。ここでまず聞きなれない「霊性」について説明を加えておこう。霊性は霊的な存在(spirit, spiritus)の属性を示す用語で、英語ではスピリチュアリティ(sprituality)と称する。スピリチュアリティに関連する諸概念は、古代ギリシャ以来、キリスト教の神学論、宗教史、形而上学、西洋以外の宗教であるヒンドゥー教、仏教、儒教、念仏、禅や神道において語られてきた。宗教者における経験と修行実践、苦行、荒行などを通じて感得された霊性についてさまざまな解釈と意味が検討されてきた」。

 このあと、「2 SDGsが看過した問題」では「SDGsでは思想とか世界観、宗教の課題はほとんど度外視されている」と指摘し、「3 海民と海人の系譜論」では「海に関わる思想の担い手について」具体例を、「4 文明の波動史観」では「海神や霊性の問題を歴史的事象やその変容として捉える方法について、フランスの社会史学派のスタンスを紹介して」いる。

 第10章「おわりに」では、「1 海の神と霊性論の今後」(2以下はない)と題して、「これまでの議論の流れを図10-1」で示している。まず、「本書の章ごとに内容構成とキーワードを示した」。第1章「海の信仰」は「海神(綿津見神、住吉大神、宗像三女神)の系譜・エビス神」、第2章「漂着物と海神」は「漂着物・神の依り代、・恩恵と災禍」、第3章「海と占い」は「卜占と託宣・海の天候予知」、第4章「船霊・オナリ・媽祖」は「船霊・オナリ・媽祖・女神」、第5章「海神の図像学」は「海神・半魚人・龍(竜)・マカラ」、第6章「葬制と海」は「葬制・水葬・船棺葬・海の死霊」、第7章「もがり(殯)と境界」は「もがり(殯)・喪屋・風葬・改葬・洗骨」、第8章「船と神」は「準構造船・構造船・船形・殯船」、第9章「海と他界」は「他界観・常世・ニライカナイ・龍宮・来訪神・君真物」である。

 つぎに、「弥生・古墳、奈良・京都・鎌倉、江戸・明治以降の現代の三期に分け、主要な主題の適用できる時代を示した」。1、2、7章は1-3期に跨がり、3、6,8章は1-2期、4、5、9章は2-3期に適用できることがわかる。

 この図10-1から、「海神や海の霊性に関わる諸事象は歴史的に大きく変容してきたことが明らかである。ブローデルの波動説にしたがえば、図10-1に示したように時代を越えた中期波動の現象が多いと思われるが、事象によっては短期波動に落ち着く例もある」。「こうした時代変化を踏まえながら過去における海の思想や慣行とその履歴を丁寧に追いかける作業は、考古学、歴史学、国文学、民俗学など、人文諸科学の共同作業によって明らかになる」。

 そして、最後に3つの検討すべき点をまとめている。「一つ目はそれぞれの地域に着目し、地域空間において神と人間との間でどのような交渉があったのかを「空間の履歴」として捉える作業である(桑子二〇〇六)。二つ目はブローデルの社会史における長期変動、つまり地域の自然・環境と文化の関係を決定論ではなく、生態史(エコヒストリー)として動的に捉える視点である(秋道二〇一一)。最後は、霊性の問題を広く「いのち、生命」の問題として論じるスタンスで、これには自然物に霊性をどのように認めるかについて「草木國土悉皆成佛論」が参考になる(秋道二〇一三b/岡田一九九九)。いずれも筆者がこれまで考えてきた研究視野に大きく関連した視点である。これを踏まえて海の思想を紐解く作業を提案したい。最後に新たに提起したい点は、人類をはじめあらゆる生き物が海に由来するという事実である。他界の考え方にもよるが、本源的には人類とその霊は海に帰するべきと考える。これは水葬を是認するのではなく、海の思想として人類の他界先を海と考えるものである」。

 これだけまとまった議論ができるのも、「考古学、歴史学、国文学、民俗学など、人文諸科学」での積み重ねがあるからだが、それを収斂するのは並大抵のことではない。著者の専門は「生態人類学、海洋民族学、民族生物学」、3つの研究機関の名誉教授で、内外でフィールド調査をおこなってきた成果が文献の読み方をより広く、深くしたのだろう。本書を「考古学、歴史学、国文学、民俗学など」それぞれの分野でどう受けとめ、それぞれの個別分野でどう発展させていくのか、楽しみである。


評者、早瀬晋三の最近の著書・編著書
『アジア太平洋討究』第52号(早瀬晋三教授退職記念号)、2026年1月、462頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできるhttps://www.jstage.jst.go.jp/browse/wiapstokyu/52/0/_contents/-char/ja)

早瀬晋三『すれ違う歴史認識-戦争で歪められた歴史を糺す試み』人文書院、2022年、412頁、5800円+税、ISBN978-4-409-51091-9
早瀬晋三『東南アジアのスポーツ・ナショナリズム-SEAP GAMES/SEA GAMES 1959-2019年』めこん、2020年、383頁、4000円+税、ISBN978-4-8396-0322-9
早瀬晋三『グローバル化する靖国問題-東南アジアからの問い』岩波現代全書、2018年、224+22頁、2200円+税、ISBN978-4-00-029213-9

早瀬晋三『戦前期東南アジア海域における日本人漁業活動の基礎資料』(研究資料シリーズ12)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2026年2月、179頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできるhttps://waseda.repo.nii.ac.jp/records/2007415)
早瀬晋三『1912年のシンガポールの日本人社会-『南洋新報』4-12月から-』(研究資料シリーズ11)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2025年2月、159頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできるhttps://waseda.repo.nii.ac.jp/records/2004934)
早瀬晋三『戦前期フィリピン在住日本人職業別人口の総合的研究』(研究資料シリーズ10)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2024年3月、242+455頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできるfile:///C:/Users/shaya/Downloads/KenkyuShiryoSeries_10_02.pdf)
早瀬晋三『電子版 戦前期フィリピン在住日本人関係資料:解説、総目録』(研究資料シリーズ9)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2023年3月、234頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできる https://waseda.repo.nii.ac.jp/records/78131)電子版の発行は中止。
早瀬晋三編『復刻版 南洋協会発行雑誌-『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』-』第1期(大正期)全12巻(龍溪書舎、2021年4月~23年1月)、第2期(昭和期)電子版(龍溪書舎、2023年12月)+『南洋協会発行雑誌(『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』1915~44年) 解説・総目録・索引(執筆者・人名・地名・事項)』(龍溪書舎、2018年1月)全2巻。
早瀬晋三編『復刻版 ボルネオ新聞』龍渓書舎、2018~19年、全13巻+『復刻版 ボルネオ新聞(1942~45年) 解題・総目録・索引(人名・地名・事項)』龍渓書舎、2019年、471頁。

ファクンド・ガラシーノ、高木佳奈編『移民がむすぶ日本と南米の歴史-帝国・開発・官民協力』東京大学出版会、2025年10月30日、397+5頁、7600円+税

 「本研究は、[2021年に発足した]国際協力機構(JICA)緒方貞子平和開発研究所のプロジェクト「南米における日本人移民に関するトランスナショナルな歴史研究-移民事業、経済開発と文化活動を中心に」の研究成果である。戦後日本の海外移住事業を担った海外移住事業団はJICAの前身の一つであり、現在でもJICAは海外移住事業を継承しているといえる。日系社会ボランティア等の派遣、日系関連団体への支援、日系子弟に対する留学や研修プログラムの実施など、日系移民への支援が行われている。しかしながら、これまで緒方貞子平和開発研究所のプロジェクトとして日本人の移住が研究されたことはなかった」。

 その理由の一端が、「編者あとがき」に、つぎのように書かれている。「本プロジェクトの参加者は皆、日本国内の大学等の研究機関に所属する研究者である。プロジェクトリーダーのガラシーノ(現在は大阪大学所属)を除き、JICAと雇用関係にあるわけではない。しかし日系社会を訪れた際、海外移住事業団を前身とするJICAのプロジェクトとして調査を行うことの意味を意識せずにはいられなかった。日系移民の中には日本政府や外務省、JICAや研究者に対して不信感を抱いている方、インタビューで不満を露わにした方もいた。本書でも取り上げたように、日本政府が主導した、もしくは官民一体で行われた移民送出には失敗も多々あり、辛酸を嘗めた日系移民も多い。移民送出から国際協力へと事業内容を転換した後も、限られた予算の分配が、ときには日系社会の分断を生んだ。また、ポジショナリティの問題も考える必要がある。実際には、不満よりも感謝の言葉を述べた日系移民が圧倒的に多かったが、JICAから派遣された研究者である私たちを前に、果たして本音で語ってくれたのか、言いたくても言えないことがあったのではないかと考えさせられた。私たちがインタビューできたのは日系社会に残った成功者がほとんどであり、移住事業の失敗によって転住・帰国せざるを得なかった人びとの声を拾い上げるのは困難だという事情もある」。

 いっぽうで、「日系社会では世代交代が進み、大きな変化を迎えていた。二〇一〇年代までは、まだ現役で活躍していた戦後移民一世から日本語で話を聞くことができた。彼らを通じて、戦前移民のレジェンドともいうべき人物たちのエピソードに触れることもできた。また二世の中には日本語を話すものも多く、彼らが受け継いだ一世の貴重な資料を見せていただくこともあった。しかし、ここ数年でお世話になった一世の方々が次々と亡くなったり、体調不良でお話を聞くことが難しくなったりと、状況が大きく変わってしまった」。

 「本書では、二〇世紀における南米の日系移民(南米へ渡った日本人移民とその子孫である日系人)の国境を越えた移動と活動を取り上げ、国家、地域社会、コミュニティーにおいて日系移民が日本と南米をどのように結び付けたかを論じる」。学術書として、先行研究の「議論にさらなる貢献をすべく、移民送出の背景や政策と、受け入れ国の文脈の相互関連性にとりわけ注目したい。移民送出の状況、受け入れ国の条件、そして移民自身による実践がいかに不可分に結び付いていたかを浮き彫りにさせることで、日系移民を媒介とした日本と南米の共通の歴史を叙述していく」。

 序章「2.本書の構成と視座」では、「本書の方法論について述べた後、南米日系移民を近代の日本・ラテンアメリカ間の越境的存在として位置付け、そこから見えてくる本書の視座を」5つ提示している。

 「(一)国境や地域を越えた日系移民の越境的な移動と活動」では、「日系移民が媒介した日本と南米の共通する歴史を浮かび上がらせるため、本書では単一の国民国家の枠内にとどまらない歴史叙述を試みる「越境史」という視座に立つ」。

 「(二)近代日本と南米の交差点における南米日系移民」では、「南米日系移民の越境的移動と、移民を軸とした両地域の歴史的な結節点を概観した上で、本書が提示する視座を整理」する。

 「(三)近代日本にとっての「第三の場」としての南米」では、「移民を軸とした両地域の結び付きを考えるため、本書で提示する視座を述べる」。「日本にとって南米の重要性は、欧米、アジアに変[代]わる「第三の選択肢」として登場した点が挙げられる」。

 「(四)遠隔の移住先としての南米」では、「日本・南米間の距離によって生まれたあらゆる障壁や困難、溝と、その距離を越えて移動し定着したモノ、築かれた関係を明らかにする」。

 「(五)「官」と「民」の様々なかたち」では、「移民の送出や経済活動、文化活動において、「官」と「民」が一体となって行われた事業が数多く存在」し、また「官/民をはっきりと区別することが難しいものも少なくない」なかで、「本書では官と民の両方に参加したもの、組織の性質上、官と民に区別できないものも取り上げ、移住の実態を探る」。

 本書は、序章「南米日系移民の歴史を振り返る意義」の後、3部全7章、終章、補遺「「文化事業移民」舟木章・茂子夫妻の軌跡」、編者あとがき、などからなる。

 第一部「移民の送出と教育」は第1-3章の3章と1つのコラムからなり、「主に送出国側から見た日本の移民送出事業と移民教育について議論する」。第1章「日本の南米移民事業における「官民」協力-海外興業株式会社業務代理人の人物像と活動」では、「戦前期の海外興業株式会社が各道府県に設置した業務代理人の人物像に迫り、その類型を明らかにする」。第2章「海外植民学校の教育内容と卒業生の戦前期パラグアイへの入植」第3章「救済としての渡航-日本力行会におけるキリスト教と移住の結びつきについて」は、「それぞれ移民の教育を担った民間の教育機関について論じる」。

 第二部「移民とともに移動するモノ」は第4-5章の2章と2つのコラムからなり、「移民の活動に伴って移動したモノと、その流通や普及についてトランスナショナルな視点で論じる」。第4章「交易仲介人としての日本人移民-日本とペルー間の綿花貿易と日系人の役割(1920-1950s)」では、「日本政府が介入して進められたペルーとの綿花貿易において、仲介者として重要な役割を果たした日系移民を交易ディアスポラとして論じる」。第5章「日系移民とともに移動した「日本文化」-一九三〇~一九六〇年代における日本・アルゼンチン間の文化交流について」では、「日本がアルゼンチンに対して行った文化政策と日系移民の活動を取り上げ、日本政府の思惑と移民の実際の活動とのずれを明らかにする」。

 第三部「移民と開発」は第6-7章の2章からなり、「「開発」をテーマに日本とブラジル間の人の移動を考える」。第6章「日系移民とアマゾン開発-日本とブラジルの移民政策と開発政策の交差点から」では、「一九二〇年代から一九六〇年代にかけてのブラジル・アマゾンにおける日本の民間や政府による移植民事業を対象に、これらがブラジルの移民政策や開発政策とどのように交錯し、どのような相互作用があったかを論じる」。第7章「『北海道協会報』からみた在ブラジル北海道協会の活動-北海道庁の戦後移民政策との関係から」では、「日本の国内植民地であった北海道の総合開発と同時に行われた、北海道からブラジルへの移住を取り上げる。戦後北海道における海外移住言説と、ブラジルの北海道協会がどのような活動を行ったのかを明らかにする」。

 終章「日系移民がむすんだ日本と南米-今後の研究課題と展望」では、「序章で提示した論点に沿って本書で明らかにしたことを整理して、今後の研究の展望を示」す。

 「編者あとがき」では、「1.日系移民史から現代日本を考える」「2.本書の執筆を振り返って」で本書全体を概観し、つぎのパラグラフで終えている。「日本政府や外務省は日系社会が中南米外交に貢献することを期待しており、二〇二三年一月には外務省が中南米日系社会連携推進室を設置した。世界中に築かれた日系移民のネットワークは、今後さらに重要性を増していくだろう。日系社会と友好な関係を維持するためには、過去の政策に対する批判を真摯に受け止め、できる限り様々な立場の人びとの声に耳を傾ける必要がある。そして我々研究者に出来ることは、変わりゆく日系社会の記録を残し、研究成果を還元し、未来の世代に託すことである。日系社会の歴史は日本の歴史であると同時に、受け入れ国の歴史でもある。遠く離れた日本と南米を行き来した人々が繋いだ友好関係は、歴史から教訓を得ることで今後益々発展していくだろう。本書が取り上げた事例はごく一部ではあるが、日系移民の歴史から得られた反省や経験を未来に活かすための助けとなれば幸いである」。

 「大きな変化を迎え」ていることから、送出国と受け入れ国の2国間関係をこえて考察するだけではすまなくなっている。人種的にも地理的にもハイブリッドに考えなければならなくなっており、グローバルだけでなく、リージョナルやローカルを基準としなければならなくなっている。ということは、日系人だけを考察対象とすることには限界があるということでもある。その意味で、本書のように「歴史を振り返」り、先行研究を整理することが重要になる。それだけに「終章」で「今後の研究課題と展望」が簡潔な整理だけで終わっているのは残念であった。


評者、早瀬晋三の最近の著書・編著書
『アジア太平洋討究』第52号(早瀬晋三教授退職記念号)、2026年1月、462頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできるhttps://www.jstage.jst.go.jp/browse/wiapstokyu/52/0/_contents/-char/ja)

早瀬晋三『すれ違う歴史認識-戦争で歪められた歴史を糺す試み』人文書院、2022年、412頁、5800円+税、ISBN978-4-409-51091-9
早瀬晋三『東南アジアのスポーツ・ナショナリズム-SEAP GAMES/SEA GAMES 1959-2019年』めこん、2020年、383頁、4000円+税、ISBN978-4-8396-0322-9
早瀬晋三『グローバル化する靖国問題-東南アジアからの問い』岩波現代全書、2018年、224+22頁、2200円+税、ISBN978-4-00-029213-9

早瀬晋三『戦前期東南アジア海域における日本人漁業活動の基礎資料』(研究資料シリーズ12)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2026年2月、179頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできるhttps://waseda.repo.nii.ac.jp/records/2007415)
早瀬晋三『1912年のシンガポールの日本人社会-『南洋新報』4-12月から-』(研究資料シリーズ11)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2025年2月、159頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできるhttps://waseda.repo.nii.ac.jp/records/2004934)
早瀬晋三『戦前期フィリピン在住日本人職業別人口の総合的研究』(研究資料シリーズ10)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2024年3月、242+455頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできるfile:///C:/Users/shaya/Downloads/KenkyuShiryoSeries_10_02.pdf)
早瀬晋三『電子版 戦前期フィリピン在住日本人関係資料:解説、総目録』(研究資料シリーズ9)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2023年3月、234頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできる https://waseda.repo.nii.ac.jp/records/78131)電子版の発行は中止。
早瀬晋三編『復刻版 南洋協会発行雑誌-『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』-』第1期(大正期)全12巻(龍溪書舎、2021年4月~23年1月)、第2期(昭和期)電子版(龍溪書舎、2023年12月)+『南洋協会発行雑誌(『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』1915~44年) 解説・総目録・索引(執筆者・人名・地名・事項)』(龍溪書舎、2018年1月)全2巻。
早瀬晋三編『復刻版 ボルネオ新聞』龍渓書舎、2018~19年、全13巻+『復刻版 ボルネオ新聞(1942~45年) 解題・総目録・索引(人名・地名・事項)』龍渓書舎、2019年、471頁。

朴沙羅『日本社会と外国人-入管政策が照らす80年』中公新書、2026年3月25日、288頁、1200円+税、ISBN978-4-12-102902-7

 本書の内容は、表紙見返しに、つぎのようにまとめられている。「日本では近年、外国人をめぐる言説や政策に注目が集まるが、制度や歴史的背景への理解は深まっていない。本書は、出入国管理政策の歴史をたどり、敗戦後から現在まで、制度の変化が何をもたらしてきたのかを描く。社会運動やレイシズム、高まる労働力への需要といった論点を通じ、同化と排除の狭間で揺れ動いてきた現実を示す。「外国人」を生み出してきた歴史や制度から浮かび上がるのは、日本社会そのものの姿である」。

 著者は、本書の問題意識について、「はじめに」で、つぎのように説明している。「出入国管理政策の変遷を考察する際に焦点を合わせるべきは、外国人ではなく、彼らへの対応を通じて露呈する日本社会のあり方のほうだ。在日外国人と一括される人々は、出身地も、今の職業も、法的地位も、日本に来た経緯も、日本に住んでいる期間も、将来の見通しも多様だ。その多様性を無視せよというのではない。彼らを等しく「外国人」として扱うことを可能にする法制度と、その法制度が実施されるプロセスや、その法制度に基づく外国人の処遇にも目を向けるべきではないか。「外国人」が問題になる時、問題として指をさされる人々にではなく、彼らを指さす自らの指にも、目を向けるべきではないか。外国人という存在を生み出し続ける制度や慣行に目を向けることなく、その結果として生み出される外国人に問題を還元する視点は、日本社会の制度が内包している偏りを見逃してしまう」。このような問題意識のもと、本書は「日本の出入国管理政策の歴史と現状の紹介を目的としている」。

 本書は、はじめに、序章、時系列に全6章、終章、あとがきなどからなる。著者が「歴史に注目するのは、それによって、日本の出入国管理政策が成立した時から今までの、変化した点と維持されてきた性質の両方を示せるからだ。それは、私たちが「日本」と「日本人」なるものについてのステレオタイプ的な「神話」(「日本は島国だから」「日本はもともと外国人を受け入れてこなかった国だから」等々)に陥ることを防ぐだろう」。

 序章「本書の対象」で、「法令と省庁」「制度上の特徴」「戦前の入管制度」「大日本帝国の拡大」「日本国籍と外地住民の法的地位」「非日本人に対する出入国管理」の見出しのもとで戦前の歴史を説明し、最後につぎのようにまとめている。「大日本帝国における国籍、戸籍、入国管理、移動の自由は、地域や出自によって大きく異なっていた。敗戦と帝国の解体に伴い、このような違いは「臣民」の間の違いではなく、「国民」と「外国人」との違いとして再編されていく」。

 第1章「入管体制の成立-1945~52年」では、「日本が連合国軍に降伏した1945年から、再独立を果たす52年までを対象とする。この時期は戦後の出入国管理政策の出発点となった」。第2章「「黒船」に至るまで-1952~81年」では、「1950年代から80年代までの出入国管理政策の変化と、その変化をもたらしてきた政治的・社会的要因を述べる」。

 第3章「「1990年体制」の成立と展開」では「現在の出入国管理政策の原点ともいえる、1990年の法改正を中心に述べ」、第4章「強化される管理と監視-2000年代」では「その方向が2000年代にどのように変化してきたかについて述べる」。

 「出入国管理制度が「日本人」と異なる人間として「外国人」の法的地位や取り扱いを定めているとすれば、国籍法はその「日本人」と「外国人」を定義する。そのため」、第5章「人種差別と出入国管理政策-2010年代」では「出入国管理政策に加えて、国籍法とヘイトスピーチについても論じる」。第6章「労働力の受け入れ-2020年代」は、「2010年代後半から本書執筆時点である25年半ばまでの出入国・在留管理政策について述べる」。

 そして、つぎのようにまとめて、「はじめに」を閉じている。「日本人と日本社会が、日本人とは異なる者として外国人を生み出し処遇し続けてきた歴史は、「誰が、どのような理由で、どのくらいの期間なら、ここにいていい人間なのか」をめぐる日本社会の決定の歴史だ。その歴史には、日本に住む人間たちにとって人権とは何であるかという理解のされ方が反映されている。本書が描き出すのは、そのようなものとしての日本と日本人、日本社会の姿である」。

 また、終章「これからの選択」は、つぎのパラグラフで終えている。「日本の出入国管理政策がいかなる方向に進み、どのように外国人を処遇していくのかは、これからも変化し続けるだろう。外国人やエスニック・マイノリティ、そして何より日本に住む有権者が、出入国管理政策に満足する時も絶望する時も、どちらも近いうちには来ないだろう。それは気が重くなる一方で、希望を与えてくれる可能性もないだろうか。変化の具体的な内容とその方向を決定する力を持っているのは、少なくとも建前のうえでは、日本に住む人々の集合的な選択と行動なのだから」。

 著者がこの本で書こうとしたのは、「日本人特権の裏側です」と「あとがき」にある。つづけて、つぎのように書いている。「特権を持つ者は、他人の権利侵害や、他人に権利があること自体に気づきにくくなります。「自分には関係ない」と思えるからです(そう思える不均衡こそ特権があることを示しているのですが)。しかし、人権が普遍的であるというのは、理念ではなく定義です。ある集団にだけ認められる「人権」は人権ではありません。普遍的な人権を本当に尊重する社会を目指すなら、「国民」と「外国人」を分ける線引きについて、そしてその線の内側にいる自分たちについて、改めて考える必要があるのではないでしょうか」。

 「特権を持つ者」は、その特権のための秩序を守ろうとするが、特権のない「外国人」はその秩序に無関心である。自分に人権があれば、それを守るために努力し、その弊害になるものは排除しようとする。「日本に住む人々の集合的な選択と行動」は、日本に住むすべての人びとに「特権」と「人権」が平等にあって、はじめて機能する。表面的な多様性に目を奪われることなく、「特権」や「人権」の基層にあるものはなにかを理解しなければならない。それは、人びとへの尊重と尊厳である。


大阪府豊中市(千里中央)に転居しました
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早瀬晋三『グローバル化する靖国問題-東南アジアからの問い』岩波現代全書、2018年、224+22頁、2200円+税、ISBN978-4-00-029213-9

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