越智郁乃・関恒樹・長坂格・松井生子編『グローバリゼーションとつながりの人類学』七月社、2021年3月31日、395頁、5600円+税、ISBN978-4-909544-19-3

 本論集の主題は、「あとがき」冒頭で、つぎのように説明されている。「本論集は、グローバリゼーションを経たのちの社会・コミュニティの変化と、そこに生じる「つながり」について論じることを主題としている。近代の植民地支配および国民国家形成、またそれに伴う国境の策定を経て、越境的な人とモノの移動が増大する現代においても、人々が日々の実践においてつくり出すつながりについて論じることは、人類学における変わらぬ営みであろう。ゆえに私たちは、そのつながりが紡ぎ出される場であるそれぞれのフィールドにこだわり続ける」。

 本書は、序、4部全14章、あとがきなどからなる。「各部と各章の位置づけ」は、序「グローバリゼーションとつながりの人類学」で、つぎのように説明している。

 第Ⅰ部「ネーションと記憶」は、3章からなり、「グローバリゼーションと一見正反対に思われるナショナリズムについて論じる。グローバリゼーションによってナショナリズムは弱まると思われていたが、日本における「嫌韓・嫌中」など周辺国を意識したある種のナショナリズムの興隆は、現代のグロバリゼーションの一側面を表していると言える。ここでは近年のグローバリゼーションのなかでのネーションの動態を、「記憶」や「感情」、また明確な言葉にならない「居心地」というキーワードによって論じる」。

 第Ⅱ部「新しいつながり」は5章からなり、「グローバリゼーションの中でもたらされた新たな統治性や人やモノの移動によって、フィールドにおいてどのような「つながり」の形勢が見られるのか、それが人々の生にいかなる影響を与えるのかを、「コミュニティ」「シティズンシップ」「ジェンダー」「伝統文化」「差異と相同性」というキーワードから描き出す」。

 第Ⅲ部「ケア・支援の現場から」は3章からなり、「グローバル化された家事労働の現場、そして新たな包摂の形が模索される地域や大学の障害者支援の現場において、いかなる「つながり」が形成され、どのような主体化が展開しているのかを、「男性性」「ノーマライゼーション」「包摂と排除」というキーワードから読み解く」。

 第Ⅳ部「ツーリズムとつながり」は3章からなり、「観光現象に焦点を当てる」。「人やイメージのモビリティが飛躍的に向上し、また単なる観光地だけでなく日常そのものが観光対象ともなる現在においては、あらゆる人々が、ツーリスト(=ゲスト)あるいはホストとなりうる。特定の共同体に所属しつつ時折別の共同体を訪れる「観光客」によって引き起こされる「偶然」や「誤記」[略]によって、フィールドにおいてどのような「つながり」やイメージが生じ、そしてそれらがいかに交渉されているのかを、「啓蒙」「ミドルマン」「地域文化」というキーワードを用いて論じる」。

 そして、「序」をつぎのパラグラフで終えている。「Covid-19をめぐるグローバルな状況においては、人々の連帯の一方で他者への非難、監視が強化されている。さらに、グローバルな交易の拡大と同時に高まる自国第一主義の強化も指摘されて久しい。このような、つながりとへだたり、接続と断絶、連帯と疎外といった、今日のグローバリゼーションが持つ二面性、両義的な動態の解明は、まさに「新たな日常」における生の指針を得る上で、喫緊の課題であるといえる。このような問いを、抽象的かつ一般的な理論としてではなく、世界各地の地域社会の固有な生の文脈において考える各論考を、文化人類学だけに限らず、隣接諸分野、そして大学で学ぼうとする学生諸氏と共有し、共に議論し続けるための一歩として本書があると考える。この本が新しい世界とどのように関わり合っていくのかを示すものになることを編者一同願う次第である」。

 本書は、2021年3月に広島大学を退職した髙谷紀夫の教えを受けた者を主たる執筆者とし、同僚2名が編者・執筆者として加わっている。髙谷本人は、「人類学者としては生涯未完成であることを承知の上で、いままで重ねてきたエスノグラファーとしての自らの研究活動の足跡の再確認、そしてこれからの研究活動深化のための検証の試み」として、『ビルマとシャンのエスノグラファーとして』(広島大学大学院人間社会科学研究科(総合科学研究科)・総合科学部、2021年2月28日、143頁)を出版している。

 文化人類学というディシプリンを共通項とした「つながり」が感じられるのは、基礎研究を基本とした教育がおこなわれたからだろう。


評者、早瀬晋三の最近の著書・編著書
早瀬晋三『東南アジアのスポーツ・ナショナリズム-SEAP GAMES/SEA GAMES 1959-2019年』めこん、2020年、383頁、4000円+税、ISBN978-4-8396-0322-9
早瀬晋三『グローバル化する靖国問題-東南アジアからの問い』岩波現代全書、2018年、224+22頁、2200円+税、ISBN978-4-00-029213-9
早瀬晋三編『復刻版 南洋協会発行雑誌-『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』-』(龍溪書舎、2021年4月~)全30巻+『南洋協会発行雑誌(『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』1915~44年) 解説・総目録・索引(執筆者・人名・地名・事項)』(龍溪書舎、2018年1月)全2巻。
早瀬晋三編『復刻版 ボルネオ新聞』龍渓書舎、2018~19年、全13巻+『復刻版 ボルネオ新聞(1942~45年) 解題・総目録・索引(人名・地名・事項)』龍渓書舎、2019年、471頁。