秋道智彌・角南篤編著『海とヒトの関係学③ 海はだれのものか』西日本出版社、2020年3月4日、237頁、1600円+税、ISBN978-4-908443-50-3

 「海は本来、だれのものでもない」と、「はじめに 資源はだれのものか-海洋生物の所有論」で、筆頭編著者の秋道智彌は述べている。「本来」が問題を匂わせる。つづけて、つぎのように説明している。「海洋資源も本来だれのものでもないが、地域や文化によって多様な権利の主張や慣習がある。そのうえ、歴史的経緯により新規の資源となるか、資源保全のために資源から控除される場合があり、事情は時間・空間軸で錯綜している」。ややこしそうだ。

 だれのものでもないなら、所有権を主張すること自体が問題ということになるが、そんな単純なものではないことを、「はじめに」の最後の見出し「「共有地の悲劇論」をめぐって」が語っている。

 まず、1968年に、つぎのような「共有地の悲劇」論が公表された。「共有地の牧草資源をコモンズ、つまりだれもがアクセスできるものとして、牧草が枯渇したあとで、だれもその責任を取らない悲劇が発生する。だから、共有地の資源は国家ないし企業体が責任をもって管理すべきとするシナリオを示した」。

 これにたいして、22年後に、「世界中の共有資源の利用について多くの事例が紹介され」、「そのなかで、共有資源であっても資源量や経済、社会的な条件に応じて利害関係者は自分の利益だけを考えて自由競争をする例は乏しいことが判明した」。さらに、つぎのように説明している。「共有資源にたいして、利害関係者は資源の獲得をめぐる競合を回避するための方策やルール作りが考えられていた。ルールに違反する個人に制裁を加えて、みんなで共有資源の運用について検討することもある」。「どちらが「理にかなった」行動と考えればよいだろうか」。

 本書は、はじめに、3章全12節6コラム、おわりに、などからなる。第1章「なわばりとコモンズ」は、4節、1コラムからなる。第2章「越境する海人たち」は、4節、2コラムからなる。第3章「海のせめぎ合い」は、4節、3コラムからなる。

 「おわりに 海はだれのものか」では、つぎの2つの問題が残されている、と指摘している。「一つ目は領海とEEZともからむ大陸棚延伸と海底ケーブルの運用と管理に関する議論である。二つ目は、地球上で最後のフロンティアとなる北極海の所有と利用に関する将来像についてである」。

 それぞれ見出しを立てて議論した後、つぎのように本書をまとめている。「海はだれのものかに関する諸論考を通覧し、地域共同体から地球全体の次元まできわめて多様な問題群が複雑にからみあっていることがわかった。資源の利用権に注目すると、海洋資源の存在様式(ベントス[底生生物]から高度回遊性の水産資源まで)や地域・文化・国家の条件に応じて、採捕する権利の法的枠組みは慣習法から国内法、国際法まで重層的である。国連海洋法条約の発効後でも、領海、EEZなどの制定による国際秩序は確立されてきたが、新たな問題も露呈してきた」。「EEZを越える大陸棚延伸論、海底ケーブルの運用と管理をめぐる国際的な合意などはいまだ未整理の段階にある。地球温暖化にともなう海水面上昇と北極海の開発と航行可能性が注目され、新たな海の権益問題が顕在化している」。

 そして、つぎのように提言している。「海洋環境の劣化、海洋資源の乱獲などの防止は喫緊の課題であり、とくに違法漁業は日常的にも我が国周辺で頻繁に起こっており、「海はだれのものか」に関するさまざまな分野での実効的な法整備と強力な指導性が望まれる。令和二年に至り、追随的な政策対応から決別し、アジアの海域世界と世界の中で日本が果たすべきミッションを提起するべき段階になったというべきだろう」。

 海をめぐって「違法」が目立つように、個々の国家が責任をもって管理することは難しい。国際機関が主導権を握るためには、どうしたらいいのか。国益より人類共通の利益を優先させなければならないことはわかっているのだが・・・。


評者、早瀬晋三の最近の著書・編著書
早瀬晋三『東南アジアのスポーツ・ナショナリズム-SEAP GAMES/SEA GAMES 1959-2019年』めこん、2020年、383頁、4000円+税、ISBN978-4-8396-0322-9
早瀬晋三『グローバル化する靖国問題-東南アジアからの問い』岩波現代全書、2018年、224+22頁、2200円+税、ISBN978-4-00-029213-9
早瀬晋三編『復刻版 南洋協会発行雑誌-『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』-』(龍溪書舎、2021年4月~)全30巻+『南洋協会発行雑誌(『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』1915~44年) 解説・総目録・索引(執筆者・人名・地名・事項)』(龍溪書舎、2018年1月)全2巻。
早瀬晋三編『復刻版 ボルネオ新聞』龍渓書舎、2018~19年、全13巻+『復刻版 ボルネオ新聞(1942~45年) 解題・総目録・索引(人名・地名・事項)』龍渓書舎、2019年、471頁。