濱田武士『魚と日本人-食と職の経済学』岩波新書、2016年10月20日、230頁、820円+税、ISBN978-4-00-431623-7
「序章」の見出しの「まちから魚屋が消えた」「魚食と魚職」「「魚食」の背後で何が起こっているのか」「なぜ縮小していくのか?」から本書の問題がわかり、最後の見出し「再生への道筋を考えるために」で本書の目的がわかる。
本書の概要は、表紙見返しで、つぎのようにまとめられている。「漁師、卸、仲買人、鮮魚店、板前など多くの「職人」によって支えられている日本独自の魚食文化。しかし、魚の消費量が減り、流通のあり方も変わってきている。日本各地の漁港や市場を歩いて調査を重ねてきた著者が、現場の新たな模索とともに魚食と魚職の関係を再考し、「食べる人」の未来に向けてのかかわり方も提言する」。
本書は、序章、全5章、終章などからなる。各章は、「食べる人たち」にはじまり、「生活者に売る人たち」「消費地で卸す人たち」「産地でさばく人たち」を経て、「漁る人たち」に至る。
そして、「終章」の「市場経済が深まっていくなかで」、「日本漁業が対処すべき政策課題」をつぎの2つに収斂されるとしている。「ひとつめは、「漁場の再生」である。その根拠は、遠洋漁船は外国水域の漁場から締め出され、近海漁業は、日本周辺水域に広がるグレーゾーンに迫ってくる隣国の漁船に圧倒され、沿岸漁業は、地域開発により漁場がかなり傷んでいるからだとした」。「ふたつめは、「魚を取り扱う人たちのネットワーク」を再生する、ということである。換言すると、魚を食べる人、魚を取り扱う人、魚を獲る人の関係を良好にしていくことである。とくに卸売市場が大切であることも付け加えた」と述べている。
最後に、「魚食と魚職の復権への道筋について考え」、つぎのような結論に達した。「食が職を支えている。この事実こそが大切なのだ」。「人が人を頼りにする、人が人を大切にする、人が人に敬意を払う、そして自然からの恵みをうまく廻し、活用する。魚食には、こうした連鎖が大切なのである」。
さらに視野を広げて、つぎのように述べて、「終章」を閉じている。「資本主義経済である以上、経済成長のために生産性を向上させようという力が働く。これは資本主義の性であり、致し方がない。しかし、効率化に囚われすぎて、支えあうという本来の「強み」がそぎ落とされた日本経済は豊かと言えるのであろうか」。「筆者は魚食と魚職にこそ、日本経済を豊かにするヒントがあると思う。だから、「魚食」も「魚職」も朽ちさせてはならない。各地で盛んにおこなわれているすばらしい「魚食普及」を「魚食普及」で終わらせず、「魚食不朽」につなげて欲しい。そして、小さくてもいいから、食と職の経済を育てて欲しい」。
「各地の港や市場を歩く」著者だからの視点で書かれているから、「絶望的な状況」のなかで希望を見出そうとしている。だが、縮小していく市場、細っていく魚食から、明るい未来はみえず、消費拡大を訴えるしかないという結論になっている。食料自給を含め、日本の食そのものを、戦略的に議論するときになっている。なし崩し的に「補助金」で一時しのぎする状況では、もはやないだろう。
評者、早瀬晋三の最近の著書・編著書
近刊:早瀬晋三『すれ違う歴史認識-戦争で歪められた歴史を糺す試み』人文書院、2022年、412頁、ISBN978-4-409-51091-9
早瀬晋三『東南アジアのスポーツ・ナショナリズム-SEAP GAMES/SEA GAMES 1959-2019年』めこん、2020年、383頁、4000円+税、ISBN978-4-8396-0322-9
早瀬晋三『グローバル化する靖国問題-東南アジアからの問い』岩波現代全書、2018年、224+22頁、2200円+税、ISBN978-4-00-029213-9
早瀬晋三編『復刻版 南洋協会発行雑誌-『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』-』(龍溪書舎、2021年4月~ )全30巻+『南洋協会発行雑誌(『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』1915~44年) 解説・総目録・索引(執筆者・人名・地名・事項)』(龍溪書舎、2018年1月)全2巻。
早瀬晋三編『復刻版 ボルネオ新聞』龍渓書舎、2018~19年、全13巻+『復刻版 ボルネオ新聞(1942~45年) 解題・総目録・索引(人名・地名・事項)』龍渓書舎、2019年、471頁。
コメント