白鳥圭志『横浜正金銀行の研究-外国為替銀行の経営組織構築-』吉川弘文館、2021年2月1日、221頁、8000円+税、ISBN978-4-642-03903-1
横浜正金銀行の本店本館は、現在神奈川県立歴史博物館になっている。館内の展示より、建物そのものが気になって、外も内もぐるぐる回り、ずっと見上げていたので、首が痛くなったのを覚えている。戦前の対外貿易を研究していて、気になるが全体像がよくわからなかったのがこの銀行で、本書のタイトルを見てすぐに飛びついた。
本書の内容は、裏表紙につぎのようにまとめられている。「1880年に設立され、日本銀行と密接な関係を持ちつつ世界三大為替銀行の一つとして戦前日本経済を支えた横浜正金銀行。戦争・地震・金融恐慌などに翻弄された歩みを、様々な内部史料から検証。本部組織(頭取席・取締役会・監査役会)の動向に焦点を絞り、組織管理・経営戦略といった経営上の特徴を捉え、後発国の政府系多国籍銀行の実態に迫る」。
本書は、序章、全5章、終章などからなる。まず、「序章 後発国多国籍銀行=横浜正金銀行経営史研究の課題と視角-ジェフリー・ジョーンズの多国籍銀行史研究の方法論についての再検討-」「1 本書の課題-対象の限定」で、本書の目的をつぎのようにまとめている。「同行の経営のあり方の特徴は、本書を構成する各章での研究史整理を踏まえて、問題を設定する。ここでは、本書全体に関わる議論として、ジェフリー・ジョーンズ(Jones, G.)による最先進国である英系多国籍銀行の研究方法の特徴を説明の上で、後発国の多国籍銀行である横浜正金銀行の分析の方法として何を継承して、何を批判した上で何を新たに付け加えるのかを論じる」。
全5章は、「時期別に問題にすべき事柄は異なる」ことから、それぞれの章で時期別(創業期、産業革命期、第一次世界大戦期から関東大震災期まで、金融恐慌・昭和恐慌期、総力戦体制下)に論じている。その特徴は、それぞれの副題(貿易金融業務の開始と経営管理体制の構築、中国大陸におけるビジネスの拡大と組織的経営管理体制の成立、外国為替銀行の金融危機への対応、外国為替銀行の金融危機へに対応(その2)、経営戦略と経営組織の再編成)に明記されている。
そして、「終章 後発国の政府系多国籍銀行史を貫くもの」では、まず「(1)組織的経営管理の歴史的展開とその特質」について、つぎのように結論している。「創業時から産業革命期までの同行は、大蔵省や日本銀行からの「外圧」(経営統治)により改革が進められた。その後は、反動恐慌後の監査役会の機能強化があった点に留意する必要があるが、第二次世界大戦期前まで明治期に形成された公的信用を支柱とする経営制度に経路依存する形で、日銀券の兌換制の維持=通貨価値の安定性確保への貢献を目的にして、ほぼ「内発的」に外国為替銀行としては極めて堅実な貸出姿勢や、その姿勢を守るための組織構築(組織革新)も含む経営行動をとっていた。このような経営行動を通じて、横浜正金銀行は貿易金融を中心に戦前日本の対外経済関係を支えていたのである」。
つぎに「(2)世界三大為替銀行との比較経営史的考察-企業統治の問題を中心に」を、つぎのようにまとめている。「他の国内後発多国籍銀行に対する競争力優位のみならず、強いsound banking志向をもたらしたことは強調しておきたい。同時に、このことが、香港上海銀行、チャータード銀行とともに、世界三大為替銀行と称された横浜正金銀行の信用力、ひいては(国際)競争力を強化(経営規模の急拡大)させた要因であることは想像に難くない。さらには、前二者が民間金融機関であり、横浜正金銀行とは異なり高い流動性を維持する形で預金銀行化を重要視する戦略をとったことを想起したとき、政府・日本銀行との密接関係を持つ特殊銀行であったことが重大な国際競争力、台湾銀行、朝鮮銀行などの国内後発多国籍銀行に対する競争力の源泉だった。これらの諸点に世界三大為替銀行や国内後発多国籍銀行と比較した横浜正金銀行の特徴が見出せる」。
国内多国籍銀行として、台湾銀行、朝鮮銀行のほかに戦争中の南方開発銀行も、本書に出てきた。若干比較されているが、まだよくわからないことが多々ある。それは、具体的事例があまり示されていないからだろう。これらの銀行によって、社会や人びとにどのような影響があったのか。いっぱいいっぱい残されている資料から考察することは、それほどたやすいことではなさそうだ。
評者、早瀬晋三の最近の著書・編著書
近刊:早瀬晋三『すれ違う歴史認識-戦争で歪められた歴史を糺す試み』人文書院、2022年1月10日、412頁、ISBN978-4-409-51091-9
早瀬晋三『東南アジアのスポーツ・ナショナリズム-SEAP GAMES/SEA GAMES 1959-2019年』めこん、2020年、383頁、4000円+税、ISBN978-4-8396-0322-9
早瀬晋三『グローバル化する靖国問題-東南アジアからの問い』岩波現代全書、2018年、224+22頁、2200円+税、ISBN978-4-00-029213-9
早瀬晋三編『復刻版 南洋協会発行雑誌-『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』-』(龍溪書舎、2021年4月~ )全30巻+『南洋協会発行雑誌(『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』1915~44年) 解説・総目録・索引(執筆者・人名・地名・事項)』(龍溪書舎、2018年1月)全2巻。
早瀬晋三編『復刻版 ボルネオ新聞』龍渓書舎、2018~19年、全13巻+『復刻版 ボルネオ新聞(1942~45年) 解題・総目録・索引(人名・地名・事項)』龍渓書舎、2019年、471頁。
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