等松春夫『日本帝国と委任統治-南洋群島をめぐる国際政治 1914-1947』名古屋大学出版会、2011年12月25日、290+38頁、6000円+税、ISBN978-4-8158-0686-6

 少し古い本になるが、国際連盟・国際連合が国際紛争にどう対処したのかの起源のようなものを知りたくて、日本が直接関与した南洋群島についての本書を開いてみた。「本書は、国際政治の中における日本の南洋群島委任統治の研究」で、「日本は一九一四年秋から実質的には一九四四年夏まで、そして法的には一九四七年まで三十年余りにわたり、南洋群島と呼ばれた太平洋のミクロネシア諸島を支配した」。

 本書の目的は、「序章」でつぎのように述べられている。「本書の目的は国際政治の中における日本の南洋群島統治の位置付けを、一九二〇-三〇年代の委任統治制度および一九四〇年代後半の初期の信託統治制度全般に関連させながら行うことである。主な問いは二つある。第一は、南洋群島は國際聯盟、関係各国、日本の間の外交でいかなる役割を果たしたのか。第二は、南洋群島の委任統治は委任統治制度とりわけB・C式委任統治制度のいかなる利点と欠点を明らかにしたのか」。

 「その南洋群島が国際政治の焦点となった時期は三つある。(1)第一次世界大戦後のパリ講和会議からワシントン会議までの時期(一九一九-二二年)における戦後処理の文脈の中での南洋群島の扱い。(2)日本が國際聯盟からの脱退を宣言し、ワシントン海軍軍縮条約が失効するまでの時期(一九三三-三六年)における南洋群島の地位。(3)連合国、特に米国による第二次世界大戦の戦後処理の一環としての南洋群島問題(一九四三-四七年)」。

 本書は、序章、全7章、終章などからなる。「本書の構成と目的」は「序章」で、つぎのようにまとめられている。「基本的には時系列順に、各時代において南洋群島に関して生じた諸問題に着目しながら進む。第1章[國際聯盟の委任統治制度]では第一次世界大戦直後の一九一九年のパリ講和会議における委任統治制度の設立と、この制度がもたらした政治的・法的諸問題を分析する」。

 第2章「南洋群島の取得から委任統治へ 一九〇〇-三〇」は、「パリ講和会議からワシントン会議にかけての時期における委任統治地域の分配と、一九二〇年代の安定期の南洋群島委任統治の経過を描く」。

 第3章「國際聯盟脱退と南洋群島委任統治の継続 一九三一-三五」では、「日本の國際聯盟脱退と南洋群島委任統治の関係について分析する。一九三三年に日本は國際聯盟からの脱退を表明し、国内外でこれが南洋群島におよぼす影響についてさまざまな議論と交渉が行われた」。

 第4章「南洋群島とドイツ植民地回復問題 一九三三-三九」は、「一九三〇年代後半の英仏の対独植民地宥和政策と日独同盟交渉の文脈中における南洋群島問題を描く」。

 第5章「ポスト・ワシントン体制の模索と南洋群島 一九三四-三九」は、「ワシントン海軍軍縮条約失効前後に各国が太平洋地域の秩序再編を図った中で南洋群島が占めた位置を考察する」。

 第6章「大東亜共栄圏と南洋群島 一九三九-四五」では、「アジア太平洋戦争前夜から戦時にかけての南洋群島が扱われる」。

 第7章「繰り返される歴史 一九四二-四七」は、「南洋群島をめぐる第二次世界大戦の戦後処理の研究である。その過程では南洋群島のために「戦略信託統治」(略)という特異な概念と制度が生まれた」。

 「本書の基本目的は比較的知れていない歴史的事件を、可能な限り一次史料を用いて掘り起こし、再構成することにある。しかしながら、南洋群島問題が持つ複雑な様相から、本書の目的に沿う範囲で委任統治に関連する領域管理、植民地支配、国際機構、領土主権、軍備管理、軍事戦略などにも事実の検証と理論的分析を行った」。

 「終章」では、冒頭つぎのように本書をまとめている。「一九一四年から四七年までの日本の対外政策の中において南洋群島を総合的に評価することは容易ではない。二十世紀の日本の対外政策の中における南洋群島の意義は、満洲や中国、欧米列強との関係に較べれば副次的なものに過ぎないという評価がある一方、日本が南洋群島を獲得し、國際聯盟脱退後も委任統治領として維持し続けたことが結果的に日本を対米戦争に導き、ついには大日本帝国の滅亡を招いたと重要視する評価もある。いずれの評価を下すにせよ、南洋群島はたしかに二十世紀前半の日本をめぐる国際関係の中で、特定の時代、特定の分野で大きな問題となった」。

 そして、つぎのようなことばで、最後のパラグラフをはじめている。「二十一世紀の今日、帝国主義列強による植民地支配を非難することはたやすい。しかしながら、問題の本質は「現代世界の激烈な状況の中、いまだ自立できない」地域を、国際社会の中でいかに扱うかにある」。つまり、國際聯盟もそれを引き継いだ国際連合も、解決しえないままでいるということである。限界を感じざるを得ない。それを克服するためには、どうすればいいのか。

評者、早瀬晋三の最近の著書・編著書
早瀬晋三『すれ違う歴史認識-戦争で歪められた歴史を糺す試み』人文書院、2022年1月20日、412頁、5800円+税、ISBN978-4-409-51091-9
早瀬晋三『東南アジアのスポーツ・ナショナリズム-SEAP GAMES/SEA GAMES 1959-2019年』めこん、2020年、383頁、4000円+税、ISBN978-4-8396-0322-9
早瀬晋三『グローバル化する靖国問題-東南アジアからの問い』岩波現代全書、2018年、224+22頁、2200円+税、ISBN978-4-00-029213-9
早瀬晋三編『復刻版 南洋協会発行雑誌-『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』-』(龍溪書舎、2021年4月~ )全30巻+『南洋協会発行雑誌(『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』1915~44年) 解説・総目録・索引(執筆者・人名・地名・事項)』(龍溪書舎、2018年1月)全2巻。
早瀬晋三編『復刻版 ボルネオ新聞』龍渓書舎、2018~19年、全13巻+『復刻版 ボルネオ新聞(1942~45年) 解題・総目録・索引(人名・地名・事項)』龍渓書舎、2019年、471頁。