貫洞欣寛『沸騰インド-超大国をめざす巨象と日本』白水社、2018年6月5日、268頁、2200円+税、ISBN978-4-560-09624-6

 「インドを一言でくくるとすれば、「多様性」という言葉しか思い浮かばない」という著者、貫洞欣寛の「あとがき」冒頭のことばに、一度でもインドを自分の目で観た者は賛同するだろう。著者が本書を書く動機も「自分の手でインドの持つさまざまな顔を一つの場でご紹介し、読者の方々の包括的なインド理解を深めることに、少しでも寄与できないだろうか」ということだった。インドとつきあうとき、どの顔を思い浮かべてつきあえばいいのかわからなくなるからである。
 「一三億近い人びとと二二の公用語。そしてヒマラヤの氷河から砂漠、密林、珊瑚礁の島まで広がる広大な国土が織りなす多様性は、一冊の本で伝えきれるものではない」が、著者は「「本格的な経済成長を遂げようとするインド「外交・軍事面で広がろうとするインド」「英語とITの大国インド」という日本をはじめ各国で注目を浴びている面と、「世界最大級の格差とカースト差別を抱え、それがなかなか解消の方向には進まないインド」「物事が決して計画どおりには進まないインド」という国内の課題面に切り分けて取材した内容をまとめ」て、本書を仕上げた。
 著者は、「欧米中心の「大西洋の時代」からアジアが台頭した「太平洋の時代」となり、そこからさらに「太平洋・インド洋の時代」へと移り変わってゆく」、その根拠はインド洋地域が、2030年に「今後世界のGDPの一二パーセントと人口の三〇パーセントを握る巨大な経済圏に成長する」と見込まれているからである。著者は、「はじめに」をつぎのことばで結んでいる。「インドが日本を追い越す日、インドは日本にどんな顔を見せるのだろうか」。「日本の私たちはどのような影響を受け、世界はどう変わるのか。本書を通じ、読者のみなさんとともに考えたい」。
 さらに「終章 日印関係とインドの将来」では、つぎのように述べている。「インドがさらに影響力を拡大し、世界的な大国となったとき、国際舞台で、アジアで、どう振る舞うのだろうか。日本とインドの経済力、技術力の差が縮まったとき、日本は何をもってインドとの交渉力を維持するのか。今から真剣に考えておく必要があるだろう」。
 そして、これらの著者の回答を、終章の最後でつぎのように述べている。「したたかなインドと付き合い、上から目線で技術を教えるだけではなく、学ぶべき点は学び、GDP総額が伸びずとも「パー・キャピタ」のクオリティーの高さに胸を張る、したたかな日本になる。それが、インドと関係を強化するなかで日本が得られる、最大のメリットではないだろうか」。
 安倍首相が中国を訪問(2018年10月25~27日)し、帰国した夜、インドのモディ首相が来日(10月27~29日)した。安倍首相は、自身の別荘に招く異例の待遇で、モディ首相をもてなした。安倍首相は、2007年、14年、15年、17年と4度インドを首相として訪問しており、モディ首相も2014年の就任以来3度目である。これだけ日印首脳が往き来している理由は、あきらかに中国の存在である。
 5章からなる本書で1章を割いて、「第2章 モディとは何者か」でモディを紹介し、さらに「第5章 分断社会の今」で「ヒンドゥー・ナショナリズム」との関連で説明している。第2章は、安倍首相と比較し、つぎのように結んでいる。「アベノミクスを前面に押し出す一方で復古調の主張で知られる日本会議に支えられ、天皇退位や憲法改正などの問題でその部分を垣間見せる安倍政権とモディ政権の構造には、似たところがある。安倍とモディは、日印の外交関係者が一致して「お互いにウマが合う」と認める関係にある。ナショナリスト同士が通じ合う、何かがあるのかもしれない」。
 「インドが日本を追い抜く日、どう振る舞うか」。安倍首相はじめ、追い抜かれる前に、日本がどう振る舞うかにかかっている。