小原篤次・神宮健・伊藤博・門闖編著『中国の金融経済を学ぶ-加速するモバイル決済と国際化する人民元』ミネルヴァ書房、2019年6月20日、252頁、3000円+税、ISBN978-4-623-08565-1

 「これからの世界経済を読むために-世界最大規模となった中国金融業の発展プロセスと構造的特徴を理解する。」と帯にある。そして、裏の帯には、「目次」に「主要用語対訳一覧(日本語・中国語・英語)」がある。もはや国際金融は、英語だけではだめで、中国語も用語として理解しなければならないのか。
 本書は、はしがき、序章、4部全11章、終章からなる。序章「中国金融経済を学ぶ目的」では、第1節「中国金融発展のプロセス」で、「40年の改革・規制とインターネット金融」で今日に至る歴史的経緯と「中国金融に関する研究の特徴」を学んだ後、第2節「中国の金融経済を学ぶ目的」で、「市場メカニズムだけで中国の金融発展を分析することができず、政府のコントロール下にある中国の金融システムはどのように市場メカニズムを導入し機能させるのか、そして政府の介入を受けながら中国の金融システムはどのような役割と機能を果たし、効率的な資金配分を行っているのか、といった点が学習上重要になる」と指摘する。そして、「本書の内容構成」で各部、各章の要約をする。
 第Ⅰ部「金融セクター発展の歴史」の第1章「改革開放と中国の金融業」と第2章「中国金融制度の整備」では、「中国金融業の歴史と改革開放および金融制度の整備について体系的に整理した」。
 第Ⅱ部「多様化する金融セクター」では、第3章「金融業の規制緩和と競争」で「金融業の規制緩和の競争では、市場開放に対して一貫して慎重な姿勢を崩さない金融当局の政策転換を中心に、関連法整備および市場参入・金融業務における自由化の進展を中心に記述した」。第4章「政策金融と農業・農村金融」では、「「三農問題」(農民・農村・農業)を中心に、農業金融の現状とあり方について詳述している」。第5章「国有企業改革からベンチャー企業支援へ」では、「企業の上場に伴うコーポレートガバナンスの強化や外国投資家への段階的な市場開放を分析し、株式取引と市場の育成に決定的な影響を及ぼす「政府と党」の意思決定を考察した」。第6章「不良債権処理と金融資産管理会社」では、「不良債権処理の長期化や処理方法の多様化に伴う金融資産管理会社の金融コングロマリットへの成長過程を考察し、中国不良債権処理業界の特殊性を指摘した」。第7章「アセットマネジメントの急拡大」では、「中国で急速に拡大した資産運用業界に対して、家計所得の増加や資産運用の多様化に応える側面を強調しつつ、金融機関が規制から逃れるために資産運用商品(財テク)を増やし、いわゆる影の銀行という側面に焦点をあて、リスクが膨らむ中国の資産管理業界における現状と課題を再認識した」。
 第Ⅲ部「フィンテックと金融イノベーション」では、「フィンテックと金融イノベーションというテーマのもと、これまで技術においてキャッチアップの立場にあった中国の金融業について、異業種の参入によりインターネット金融やモバイル決済の分野において世界をリードし、キャッシュレス社会へ前進する中国フィンテックの事例を紹介する」。第8章「モバイル決済・インターネット金融の普及」では、「とりわけ金融弱者を救済する金融包摂におけるインターネット金融の役割と意義を分析した」。第9章「フィンテックの発展と最新動向」では、「技術開発を奨励する一方、技術の進歩に追いつかない規制の弱体化を危惧する政府が抱えるジレンマについて考察を加えた」。
 第Ⅳ部「金融セクターの国際化」では、「中国金融業の海外展開と人民元の国際化動向を扱う」。第10章「中国金融業の海外展開」では、「国際金融機関の樹立を通じて国際金融における中国のプレゼンスの拡大を目指す国際化政策の展開および国際化のあり方を検討した」。第11章「為替管理と人民元の国際化」では、「人民元為替レート制度の改革や関連国際収支の状況を踏まえ、人民元国際化の見通しについて考察を加えた」。
 終章「経済成長、金融行政、金融政策の展望」では、4節にわたって「米中の名目GDP逆転はいつ起きるのか」「経済社会政策の形成構造」「金融政策の有効性」「金融危機は起きるのか」を検討している。
 「はしがき」で、それぞれの関心にしたがって、どこから読んでもいいことが書かれている。本書を読み終えて、関心のあるところから読んでも仕方がないように思えてきた。「加速する」中国金融経済では、本書の情報は関心ある分野ではすでに古くなって役に立たなくなっているのではないか。むしろ関心が二の次から読んで、関心のある分野の相対化に役立てたほうがいいのではないだろうか。「加速する」分野の先を捕らえるために