安達宏昭『大東亜共栄圏-帝国日本のアジア支配構想』中公新書、2022年7月25日、260頁、880円+税、ISBN978-4-12-102707-8

 本書の概要は、表紙見返し、および、帯の裏で、つぎのようにまとめられている。「大東亜共栄圏とは、第2次世界大戦下、日本を盟主とし、アジアの統合をめざす国策だった。それは独伊と連動し世界分割を目論むものでもあった。日本は「自存自衛」を掲げ、石油、鉱業、コメ、棉花などの生産を占領地域に割り振り、政官財が連携し企業を進出させる。だが戦局悪化後、「アジア解放」をスローガンとし、各地域の代表を招く大東亜会議を開催するなど、変容し迷走する。本書は、立案、実行から破綻までの全貌を描く」。

 また、「まえがき」では、著者、安達宏昭はつぎのように述べている。「本書では、経済的な問題意識に沿って、日本が経済自給圏として形成しようとした大東亜共栄圏の構想から破綻までを描く。具体的には当時の日本がどのような経済自給圏を構想し、どのように進めようとしたのか、また進めることができたのか、圏域経済の運営はどのように進められたのか。さらには、経済を動かす政治構造は、どのようなものだったのか述べていく」。

 本書は、まえがき、序章、全6章、終章、あとがきなどからなる。序章「総力戦と帝国日本-貧弱な資源と経済力のなかで」は、「総力戦が求めるもの」「第一次世界大戦後の日本の工業力」「英米への経済的依存と対英米協調路線」「アジア・モンロー主義路線」「日中戦争と経済自給圏構想のジレンマ」など、要点を述べた後、時系列に進む章ごとに、つぎのようにまとめている。

 第1章「構想までの道程-アジア・太平洋戦争開戦まで」では、「満州事変からアジア太平洋戦争開戦にいたるまでの国際情勢の変遷と、日本の経済自給圏形成に向けての胎動を描く」。

 第2章「大東亜建設審議会-自給圏構想の立案」では、「大東亜共栄圏の構想を立案するために、内閣のもとに設置された大東亜建設審議会での議論を追い、構想の特徴と問題点を明らかにする」。

 第3章「自給圏構想の始動-初期軍政から大東亜省設置へ」では、「アジア・太平洋戦争開始後、東南アジア地域を占領した日本が、その地域で採った方針や当初の軍政の実態を描く」。

 第4章「大東亜共同宣言と自主独立-戦局悪化の一九四三年」では、「アジア・太平洋戦争で始まって一年が経ち、ビルマ(ミャンマー)やフィリピンを独立させて、戦局が悪化するなかで大東亜共栄圏内の圏内秩序を構築しようとする過程を、外相重光葵の構想や一九四三年一一月に開催された大東亜会議を軸にして描く」。

 第5章「共栄圏運営の現実-期待のフィリピン、北支での挫折」では、「経済自給圏を建設すべく各地で重要国防資源の増産を図るが成功せず、輸送力の低下から中国の北支に重点を置く縮小した経済圏の再構築へと向かい、それすらも挫折する過程を追う」。

 第6章「帝国日本の瓦解-自給圏の終焉」は、「大東亜共栄圏の政治的秩序が日本自ら発した言葉により対日協力者の自立と抵抗にあって揺らぎ、戦局の悪化により輸送力がさらに低下し、各地が分断されて経済自給圏が崩壊していく様相を描いていく」。

 そして、つづけてつぎのようなパラグラフで、「序章」を締め括っている。「これらを通して、日本が経済自給圏を形成するのは困難であり、脆弱な経済力しか持たずにアジアで盟主になろうとした矛盾が明らかになるだろう。そのことが、近代日本の特質と現在にいたる日本とアジアの関係を考える有益な知見をもたらすと考える」。

 終章「大東亜共栄圏とは何だったか」では、「場当たり的政策、脆弱な経済」「大東亜共栄圏の独善性」「国家機構の分立性と総力戦」を議論した後、戦後の日本と東南アジアとの関わりに進んでいく過程を、つぎのようにまとめている。「戦後の冷戦、植民地の独立、イギリスの撤退とアメリカの覇権という戦後の東南アジアをめぐる新しい国際的枠組みが形成されるなかで、日本は盟主としてではなく、アメリカの「ジュニア・パートナー」として、アメリカに次ぐ二番目の地位にあって、東南アジアへ進出していた」。

 そして、「戦後の国際環境の激変によって、戦前と戦後に大きな「断絶」が生まれ、外部から日本の戦前の行動への責任追及は厳しくなかった。戦前の大東亜共栄圏による自給圏形成の記憶は多くの日本人から徐々に薄れつつあった」が、著者はつぎのパラグラフで「終章」を終えている。「とはいえ、八〇年近く前、大東亜共栄圏を掲げ、日本の指導のもと東アジア・東南アジア諸地域に圧政を布いた事実は消えることはない。国際社会で一方的かつ独善的な振る舞いをした記憶も消えることはないだろう」。

 「大東亜共栄圏とは何だったのか」という問いは、日本人に向けられるだけでなく、大東亜共栄圏に組みこまれた各国・地域にとって何だったのかを問いかけなければ、その実態はみえてこないだろう。そのために、戦後の関係まで含めて「終章」で議論したことは有益だった。


評者、早瀬晋三の最近の著書・編著書
早瀬晋三『すれ違う歴史認識-戦争で歪められた歴史を糺す試み』人文書院、2022年1月20日、412頁、5800円+税、ISBN978-4-409-51091-9
早瀬晋三『東南アジアのスポーツ・ナショナリズム-SEAP GAMES/SEA GAMES 1959-2019年』めこん、2020年、383頁、4000円+税、ISBN978-4-8396-0322-9
早瀬晋三『グローバル化する靖国問題-東南アジアからの問い』岩波現代全書、2018年、224+22頁、2200円+税、ISBN978-4-00-029213-9
早瀬晋三編『復刻版 南洋協会発行雑誌-『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』-』(龍溪書舎、2021年4月~ )全30巻+『南洋協会発行雑誌(『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』1915~44年) 解説・総目録・索引(執筆者・人名・地名・事項)』(龍溪書舎、2018年1月)全2巻。
早瀬晋三編『復刻版 ボルネオ新聞』龍渓書舎、2018~19年、全13巻+『復刻版 ボルネオ新聞(1942~45年) 解題・総目録・索引(人名・地名・事項)』龍渓書舎、2019年、471頁。