池田憲隆『近代日本海軍の政治経済史-「軍備拡張計画」の展開とその影響』有志舎、2022年9月30日、298頁、6000円+税、ISBN978-4-908672-59-0
本書の目的は、序章「なぜ「軍備拡張計画」に着目するのか」の冒頭で、つぎのようにまとめられている。「日清戦争以前の海軍軍備拡張を主対象としながら、1883年(明治16)年に実施が始まる軍備拡張計画に焦点を当てて、その成立の経緯と内容およびその後の経過と影響について分析することによって、海軍軍拡の政治経済的意義を考察することである」。そして、「近代日本の政治経済的特質の一端を明らかに」することである。
本書は、序章、全5章、補論、終章などからなる。「本書が対象とする時期は主として1882年から1896年頃までであり、章立てにおいても各章の叙述においてもほぼ時間的順序に従っている」。
第1章「長期軍備拡張計画の成立」では、「1883年以降の軍拡計画がなぜ成立し、その実施状況がいかなるものであったのかという点を追求する」。
第2章「長期計画に基づく海軍軍備拡張の開始」では、「海軍軍拡によって生じた艦船整備の拡大に応じて国内建造と海外輸入の両者がいかに展開したのかという点について検討する」。
第3章「長期軍拡計画の再編と軍拡構想の変遷」では、「当初8年計画であったものが6年に短縮されて、海軍軍拡計画がいかに変容したのか、その計画が終了した後も事実上財政資金が継続して投下されていたのはなぜかという点を追求し、それとの関連で海軍軍備構想の変化についてもみていく」。
第4章「再編海軍軍拡期における艦船整備の動向」では、「再編・継続された軍拡後の状況下における艦船建造・整備の実態およびその変化を検討する」。
第5章「艦船国内建造体制の形成と展開」は、「こうした軍拡が海軍生産部門にもたらした影響を経営体に即しながら、やや時期を遡った時点からその経営構造や労使関係の変化を分析する」。
補論「海軍省所管製鋼所案の再検討」では、「海軍省所管製鋼所案を軍拡政策との関係で取り上げ」る。
終章「日清戦後軍拡の開始-海軍軍拡長期計画の復活」では、「日清戦争後に軍拡計画が本格的に復活した経緯とその後について若干の展望を述べ」る。
終章は、結論としてまとめた、つぎの「小括」で終えている。「日清戦後経営期における軍事費の急拡大については、第一に賠償金の獲得、第二に戦勝によって高まった陸海軍の威信と「三国干渉」によるナショナリズムの高揚、第三に政府と民党の接近、などによって説明されてきたが、日清戦争以前における軍拡決定過程を教訓とした陸海軍の新たな予算獲得戦術にも着目する必要があろう。海軍がとくに長期計画を望んでいたことについては前述したとおりであり、日清戦後には待望のスケールアップした長期計画が実現した。だが、それに止まらず既存艦船の更新にあたって新たな予算獲得を必要としない方策-軍艦水雷艇補充基金-をも手に入れたことは、海軍軍拡の新たな局面を拓くものであり、これによって海軍も陸軍のように軍拡予算の経常化する手段を獲得したのであった」。
「日本の政治経済にどのような影響を与えたのか?」というより、1945年の敗戦に至る筋道ができたといっていいだろう。近代の海軍は巨大軍艦の建造をともなうため、長期的な計画が必要となる。それだけ、国家そのものへの影響が大きくなる。陸軍との関係も、長期的な予算獲得を抜きにして語ることはできないだろう。
評者、早瀬晋三の最近の著書・編著書
早瀬晋三『すれ違う歴史認識-戦争で歪められた歴史を糺す試み』人文書院、2022年1月20日、412頁、5800円+税、ISBN978-4-409-51091-9
早瀬晋三『東南アジアのスポーツ・ナショナリズム-SEAP GAMES/SEA GAMES 1959-2019年』めこん、2020年、383頁、4000円+税、ISBN978-4-8396-0322-9
早瀬晋三『グローバル化する靖国問題-東南アジアからの問い』岩波現代全書、2018年、224+22頁、2200円+税、ISBN978-4-00-029213-9
早瀬晋三編『復刻版 南洋協会発行雑誌-『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』-』(龍溪書舎、2021年4月~ )全30巻+『南洋協会発行雑誌(『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』1915~44年) 解説・総目録・索引(執筆者・人名・地名・事項)』(龍溪書舎、2018年1月)全2巻。
早瀬晋三編『復刻版 ボルネオ新聞』龍渓書舎、2018~19年、全13巻+『復刻版 ボルネオ新聞(1942~45年) 解題・総目録・索引(人名・地名・事項)』龍渓書舎、2019年、471頁。
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