原口泉『日本人として知っておきたい琉球・沖縄史』PHP新書、2022年6月10日、206頁、1030円+税、ISBN978-4-569-85196-9
本書は、つぎのことばではじまる。「沖縄から日本が見えるといわれて久しい。グローバル化した現在、アジアや世界が見えるといってもよい。気候温暖化・環境破壊・自然災害・疫病……。いまや地球規模に拡大しており、私には小さい沖縄の島が地球の縮図のように見える」。
この「まえがき」の書き出しにたいして、「あとがき」ではその理由を「強者の論理がまかり通る近代は沖縄の歴史に表れている」としている。著者、原口泉は、本書を含めた日本近現代史三部作の前2著で、「明治維新と北海道の近代史」を扱っている。「アイヌ民族の部族国家に対して琉球王国は高度な階級国家で」、「双方とも大和から見れば周縁に位置し、明治維新後の近代日本から抑圧されてきた」歴史がある。
本書の概要は、表紙見返しにある。「那覇で発見された「山下洞人」の化石人骨は、何と3万2000年前のものだと推定される。爾来沖縄の人々は彩り豊かな歴史を紡いできた。地方の権力者が各々グスク(城)を築いたグスク時代ののち、三山時代を経て、尚氏による統一王朝が誕生。王の即位式で、神女を利用した策謀がなされたこともあった。中国との進貢貿易、東南アジアと日本を行き来する中継貿易で王国は繁栄するが、17世紀島津氏の侵攻を受け、中国と鹿児島藩との二重支配体制に。やがて日本に組みこまれ、悲劇の沖縄戦、本土復帰を経て現代へ…」。「琉球・沖縄の通史を第一人者が丁寧に解説」。
本書は、まえがき、全5章、あとがき、引用文献からなる通史である。「本書のタイトルに「日本人として知っておきたい」と冠した理由」は、「今年は沖縄が日本本土復帰して50周年である」からで、つぎのように説明している。「はじめ「教養として」としていたが、教養に留めてはならないという想いから書名を改めた。薩摩に生まれ、アメリカの高校を卒業し、東京の大学で学び、鹿児島の大学に奉職している自分はいつも加害者の立場にいたことを忘れてはならないと思う」。
そして、「まえがき」をつぎのことばで結んでいる。「「鉄の暴風」で県民の4分の1が犠牲になった沖縄戦の体験から発せられた「命(ぬち)どぅ宝」というメッセージを、今こそ改めて肝に銘じたい」。
「沖縄の通史を書いた新書は意外に少ない」という。その理由のひとつに、「鉄の暴風」で多くの資料が失われたことがある。それを補うためにも、支配した側の鹿児島藩の資料が重要な意味をもつ。にもかかわらず、本書でもその原資料を用いた記述はあまりない。藩校造士館の伝統を受け継いだ鹿児島大学法文学部に32年間「奉職」した著者らによる原資料に基づく研究成果がみえてこない。これに中国側の資料を突きあわせていけば、琉球・沖縄史の欠けていた部分が見えてくるような気がする。
「あとがき」の最後で、先学の通史・概説書が紹介されている。ここで本格的な専門書が紹介できれば、冒頭の「沖縄から日本が見える」「沖縄の島が地球の縮図」の意味を、さらに理解することができただろう。
評者、早瀬晋三の最近の著書・編著書
早瀬晋三『すれ違う歴史認識-戦争で歪められた歴史を糺す試み』人文書院、2022年1月20日、412頁、5800円+税、ISBN978-4-409-51091-9
早瀬晋三『東南アジアのスポーツ・ナショナリズム-SEAP GAMES/SEA GAMES 1959-2019年』めこん、2020年、383頁、4000円+税、ISBN978-4-8396-0322-9
早瀬晋三『グローバル化する靖国問題-東南アジアからの問い』岩波現代全書、2018年、224+22頁、2200円+税、ISBN978-4-00-029213-9
早瀬晋三編『復刻版 南洋協会発行雑誌-『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』-』(龍溪書舎、2021年4月~ )全30巻+『南洋協会発行雑誌(『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』1915~44年) 解説・総目録・索引(執筆者・人名・地名・事項)』(龍溪書舎、2018年1月)全2巻。
早瀬晋三編『復刻版 ボルネオ新聞』龍渓書舎、2018~19年、全13巻+『復刻版 ボルネオ新聞(1942~45年) 解題・総目録・索引(人名・地名・事項)』龍渓書舎、2019年、471頁。
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