岡部恭宜編著『青年海外協力隊は何をもたらしたか-開発協力とグローバル人材育成50年の成果-』ミネルヴァ書房、2018年5月15日、326頁、4500円+税、ISBN978-4-623-07621-5
本書は、2011年末にはじまったJICA研究所のプロジェクト「青年海外協力隊の学際的研究」の成果である。その概要は、表紙カバー見返しにつぎのようにまとめられている。「国民参加型ODAであり、国際協力機構(JICA)が実施している青年海外協力隊。この事業は、途上国の人々に変化をもたらす開発協力と、グローバル社会で活躍する日本人の育成という二つの顔を持ち、1965年の発足から50年を超えた。本書は、様々な学問的視点から、隊員への意識調査やインタビュー、参与観察や一次資料等を駆使し、隊員の実際の活動のほか、事業の制度や組織を総合的に分析。協力隊の役割を捉え直し、その意義を検証する」。
「本書は、協力隊の事業目的に焦点を当て、その成果を分析する研究書である」。協力隊の事業目的は、1965年の発足当初から3つあり、「この50年間ほとんど変わっていない」。「3つの目的とは、①開発途上国の経済・社会の発展、復興への寄与、②友好親善・相互理解の深化、③国際的視野の涵養とボランティア経験の社会還元である。要するに、「隊員」である日本人ボランティアを海外に派遣し、技術協力を中心とした開発協力に従事してもらうと同時に、それによって国際交流を深め、国際的視野の涵養に代表される隊員の人材育成を行い、さらにその経験を日本国内に持ち帰って還元してもらうという、多様な目的を持つ事業である」。
本書は、はじめに、序章、4部全12章、9コラム、終章からなる。「序章 青年海外協力隊の学際的研究」(岡部恭宜)では、「1 青年海外協力隊の成果を分析する」「2 国際ボランティアとしての協力隊」「3 開発協力と人材育成を分析する視点」の3つの節で、「まず協力隊の概要を紹介した後、それが国際ボランティア事業であることを改めて確認する。次に開発協力と人材育成という2つの事業目的に関する従来の研究を整理しつつ、制度、歴史、他国の事業例を含め、協力隊の成果を分析するために必要な視点を検討する」。最後に、「4 各章の概要」で「各章の簡単な紹介を行うことで、読者の便宜に供したい」。
「第Ⅰ部 歴史と制度・組織」では、「主にJICA現地事務所、調整員制度、短期派遣制度に焦点を当てて、その影響を論じるとともに、協力隊創設の歴史を辿っている」。第Ⅰ部は、つぎの3章からなる:「第1章 青年海外協力隊の50年-起源と発展」(岡部恭宜)「第2章 ボランティア事業における現地事務所の役割」(山田浩司)「第3章 青年海外協力隊短期派遣と「グローバル人材育成」」(藤掛洋子)。
「第Ⅱ部 隊員は何をしたか-開発協力の担い手」では、「協力隊の活動において双方向の因果関係や連鎖的な因果関係が存在することを念頭に置いた上で、定性的でプロセスを重視した、いわば動的な分析アプローチを採用して開発協力の効果を分析する」。第Ⅱ部は、つぎの3章からなる:「第4章 青年海外協力隊とキャパシティ・ディベロップメント」(細野昭雄)「第5章 「心」にはたらきかけた隊員たち-バングラデシュの予防接種、ホンジュラスのシャーガス病対策から考える」(上田直子)「第6章 青年海外協力隊隊員の役割と可能性-バングラデシュ国初等教育分野における活動事例」(馬場卓也・下田旭美)。
「第Ⅲ部 隊員について知る-人材育成の成果」では、「独自に実施した隊員への意識調査に基づく定量的データやインタビューによる定性的データを用いて、人類学や心理学の観点から青年育成に対する効果を分析している」。第Ⅲ部は、つぎの3章からなる:「第7章 協力隊員の類型化-参加動機から見る隊員像」(須田一哉・白鳥佐紀子・岡部恭宜)「第8章 落胆と「成果」-太平洋島嶼の地域性と青年海外協力隊」(関根久雄)「第9章 「めげずに頑張り続ける力」はどこから来るのか-パネルデータおよびインタビューによる分析」(佐藤峰・上山美香)。
そして、「第Ⅳ部 国際比較」では、「欧米とアジアの比較分析を行うとともに、先輩格である米国と英国の事業を取り上げ、協力隊と比較することから示唆を得ようとしている」。第Ⅳ部は、つぎの3章からなる:「第10章 アジアの国際ボランティア事業-欧米との比較研究」(岡部恭宜)「第11章 政府系ボランティアのパイオニア・米国平和部隊の非政治性-ラテンアメリカ地域の事例を中心に」(河内久実子)「第12章 英国VSOとJICAボランティア事業」(松本節子)。
9つのコラムは、「12の章で扱えなかった協力隊の様々な側面を取り上げている。そのうち6本は各章のテーマに関連したものだが、残る3本は、障害と開発、野球の指導と普及、難民問題という独自のテーマを論じている」。
3つの事業目的のなかでも、「とくに本書が重要と考えるのは、①の開発協力と③の人材育成で」、「終章 国際ボランティアとしての青年海外協力隊-成果、提言、展望-」(岡部恭宜・三次啓都)では、開発協力と人材育成を中心に、「協力隊事業がどのような成果を上げているのか、また成果を高めるためにはどのような制度や政策が必要なのか、という問題を検討した」。
その結果は、つぎのようにまとめられている。「1965年当時、創設者たちは開発協力と人材育成の両方を目指していたのである。それによって幅広い専門分野から多数の国民が参加することが可能となったのであり、現在の協力隊の派遣数の規模や活動分野の広がりは、この双面の事業目的なしには達成できなかっただろう」。「要するに、開発協力と人材育成という目的は、協力隊の事業レベルでも同時に追求されてきたし、ボランティア個人レベルでも彼らの活動の過程で相互に影響を及ぼし合ってきた。いずれのレベルでも、協力隊は「開発協力と人材育成のあいだ」に位置しており、2つの目的が相乗効果を生んで発展してきたのである。協力隊が途上国にボランティアを派遣する事業である限り、開発協力と人材育成は今後も車の両輪であり続けるだろう」。
青年海外協力隊は、「途上国にボランティアを派遣する事業である」。多くの者が「教える」ことを目的に行くが、帰国時には「教えたことより、教わったことの方が多かった」という感想をもつ。そこから、これからの協力隊のあり方がみえてくるような気がする。「ともに生きる」という視点で、対等な関係のなかで教えたり教わったりすることである。政府系の事業だけに、その成果や効率性が求められるのは当然で、本書もJICA研究所のプロジェクトだけにそのことを抜きにしては語れないだろう。しかし、日本が経済的に圧倒的に優越した時代は終わった。「ともに生きる」視点で、ともに開発協力し、人材育成する時代に来ているのではないだろうか。「教え方」より「教わり方」が上手になることによって、「教え方」に変化をもたらすことができるだろう。
「本書は、協力隊の事業目的に焦点を当て、その成果を分析する研究書である」。協力隊の事業目的は、1965年の発足当初から3つあり、「この50年間ほとんど変わっていない」。「3つの目的とは、①開発途上国の経済・社会の発展、復興への寄与、②友好親善・相互理解の深化、③国際的視野の涵養とボランティア経験の社会還元である。要するに、「隊員」である日本人ボランティアを海外に派遣し、技術協力を中心とした開発協力に従事してもらうと同時に、それによって国際交流を深め、国際的視野の涵養に代表される隊員の人材育成を行い、さらにその経験を日本国内に持ち帰って還元してもらうという、多様な目的を持つ事業である」。
本書は、はじめに、序章、4部全12章、9コラム、終章からなる。「序章 青年海外協力隊の学際的研究」(岡部恭宜)では、「1 青年海外協力隊の成果を分析する」「2 国際ボランティアとしての協力隊」「3 開発協力と人材育成を分析する視点」の3つの節で、「まず協力隊の概要を紹介した後、それが国際ボランティア事業であることを改めて確認する。次に開発協力と人材育成という2つの事業目的に関する従来の研究を整理しつつ、制度、歴史、他国の事業例を含め、協力隊の成果を分析するために必要な視点を検討する」。最後に、「4 各章の概要」で「各章の簡単な紹介を行うことで、読者の便宜に供したい」。
「第Ⅰ部 歴史と制度・組織」では、「主にJICA現地事務所、調整員制度、短期派遣制度に焦点を当てて、その影響を論じるとともに、協力隊創設の歴史を辿っている」。第Ⅰ部は、つぎの3章からなる:「第1章 青年海外協力隊の50年-起源と発展」(岡部恭宜)「第2章 ボランティア事業における現地事務所の役割」(山田浩司)「第3章 青年海外協力隊短期派遣と「グローバル人材育成」」(藤掛洋子)。
「第Ⅱ部 隊員は何をしたか-開発協力の担い手」では、「協力隊の活動において双方向の因果関係や連鎖的な因果関係が存在することを念頭に置いた上で、定性的でプロセスを重視した、いわば動的な分析アプローチを採用して開発協力の効果を分析する」。第Ⅱ部は、つぎの3章からなる:「第4章 青年海外協力隊とキャパシティ・ディベロップメント」(細野昭雄)「第5章 「心」にはたらきかけた隊員たち-バングラデシュの予防接種、ホンジュラスのシャーガス病対策から考える」(上田直子)「第6章 青年海外協力隊隊員の役割と可能性-バングラデシュ国初等教育分野における活動事例」(馬場卓也・下田旭美)。
「第Ⅲ部 隊員について知る-人材育成の成果」では、「独自に実施した隊員への意識調査に基づく定量的データやインタビューによる定性的データを用いて、人類学や心理学の観点から青年育成に対する効果を分析している」。第Ⅲ部は、つぎの3章からなる:「第7章 協力隊員の類型化-参加動機から見る隊員像」(須田一哉・白鳥佐紀子・岡部恭宜)「第8章 落胆と「成果」-太平洋島嶼の地域性と青年海外協力隊」(関根久雄)「第9章 「めげずに頑張り続ける力」はどこから来るのか-パネルデータおよびインタビューによる分析」(佐藤峰・上山美香)。
そして、「第Ⅳ部 国際比較」では、「欧米とアジアの比較分析を行うとともに、先輩格である米国と英国の事業を取り上げ、協力隊と比較することから示唆を得ようとしている」。第Ⅳ部は、つぎの3章からなる:「第10章 アジアの国際ボランティア事業-欧米との比較研究」(岡部恭宜)「第11章 政府系ボランティアのパイオニア・米国平和部隊の非政治性-ラテンアメリカ地域の事例を中心に」(河内久実子)「第12章 英国VSOとJICAボランティア事業」(松本節子)。
9つのコラムは、「12の章で扱えなかった協力隊の様々な側面を取り上げている。そのうち6本は各章のテーマに関連したものだが、残る3本は、障害と開発、野球の指導と普及、難民問題という独自のテーマを論じている」。
3つの事業目的のなかでも、「とくに本書が重要と考えるのは、①の開発協力と③の人材育成で」、「終章 国際ボランティアとしての青年海外協力隊-成果、提言、展望-」(岡部恭宜・三次啓都)では、開発協力と人材育成を中心に、「協力隊事業がどのような成果を上げているのか、また成果を高めるためにはどのような制度や政策が必要なのか、という問題を検討した」。
その結果は、つぎのようにまとめられている。「1965年当時、創設者たちは開発協力と人材育成の両方を目指していたのである。それによって幅広い専門分野から多数の国民が参加することが可能となったのであり、現在の協力隊の派遣数の規模や活動分野の広がりは、この双面の事業目的なしには達成できなかっただろう」。「要するに、開発協力と人材育成という目的は、協力隊の事業レベルでも同時に追求されてきたし、ボランティア個人レベルでも彼らの活動の過程で相互に影響を及ぼし合ってきた。いずれのレベルでも、協力隊は「開発協力と人材育成のあいだ」に位置しており、2つの目的が相乗効果を生んで発展してきたのである。協力隊が途上国にボランティアを派遣する事業である限り、開発協力と人材育成は今後も車の両輪であり続けるだろう」。
青年海外協力隊は、「途上国にボランティアを派遣する事業である」。多くの者が「教える」ことを目的に行くが、帰国時には「教えたことより、教わったことの方が多かった」という感想をもつ。そこから、これからの協力隊のあり方がみえてくるような気がする。「ともに生きる」という視点で、対等な関係のなかで教えたり教わったりすることである。政府系の事業だけに、その成果や効率性が求められるのは当然で、本書もJICA研究所のプロジェクトだけにそのことを抜きにしては語れないだろう。しかし、日本が経済的に圧倒的に優越した時代は終わった。「ともに生きる」視点で、ともに開発協力し、人材育成する時代に来ているのではないだろうか。「教え方」より「教わり方」が上手になることによって、「教え方」に変化をもたらすことができるだろう。