坂野徹編著『帝国を調べる-植民地フィールドワークの科学史』勁草書房、2016年2月15日、232+xiii頁、3400円+税、ISBN978-4-326-20054-2
「本書は、「帝国日本」「ポスト帝国」時代に東アジア各地で行われたフィールドワークや学術調査を、科学史あるいは学問史の観点から検討しようとするものである」。そしてそれは、以下のような「研究潮流に棹さしつつ、学術活動のなかでも特にフィールドワークに焦点を当て、その歴史的意味を考えることを企図している」。
まず、歴史研究の大きな潮流として「帝国日本」「ポスト帝国」がある。「一九九〇年代以降、日本では、かつて支配下に置いたアジア各地の植民地・占領地の歴史に関する膨大な研究が積み重ねられてきた。こうした植民地・占領地史研究の進展にくわえ、近年では、日本敗戦=植民地帝国崩壊後におけるアジア各国の「戦後」史に関する研究も盛んになって」きている。
つぎに、この大きな潮流の「展開と連動して、九〇年代には、科学史家を含むさまざまな領域の研究者によって、アジア各地の植民地・占領地における学術活動に関する歴史研究も本格的にはじまった。その後、生物学、物理学、化学、医学、工学などのいわゆる科学技術の領域から、歴史学、政治学、法学、経済学などの人文社会科学の領域まで、かつて植民地・占領地で行われたさまざまな分野の学術活動についての検討が進められるとともに、現地に設立された研究教育機関、博物館の歴史など、多様な問題系をめぐって「帝国日本」の学知の政治性が(ママ)[を]問う研究が登場するようになった。こうした「帝国日本」時代の学術活動への関心は、かつて日本の支配下に置かれた東アジア諸国にも共有されており、韓国・台湾・中国においても、植民地・占領地時代の学術活動に関する歴史研究が盛んになっている」。
「本書は、学問領域横断的な形でフィールドワークと「帝国」との関わりを考えようとする、日本ではじめての研究書」で、「カバーする時代は、一九世紀末から戦後、おおむね一九六〇年代までである。基本的には、「帝国日本」時代の植民地・占領地におけるフィールドワークが中心となるが(第一章-第四章)、最後の二章には、「ポスト帝国」時代のフィールドワークに関する論考が置かれる(第五章・第六章)。各章で検討対象となるフィールドワークが実施された地域は、中国大陸および日本国内(第一章)、朝鮮半島(第二章・第三章)、パラオ(第四章)、北海道(第五章)、瀬戸内地方・沖縄・韓国(第六章)だが、フィールド研究者の多くは一ヶ所に留まらず、「帝国」各地を移動しながら調査を実施したので、各章では、必要に応じて彼らの地域間での移動をめぐる問題にも目を向けている」。
「ただし、各章におけるフィールドワークに対する捉え方は大きく異なっている。第一章が扱うのは文献史学を越える可能性をもつ(と考えられた)方法論としてのフィールドワークであるのに対して、第二章におけるフィールドワークとは、極論すれば文献の記述を再確認するための作業にすぎない。さらに第三章におけるフィールドワークは、実験研究と相補うものであり、第四章においては植民地での生活総体がフィールドワークだということになる。また、第五章が焦点を当てるのは研究者のフィールドノートなどから明らかになるフィールドワークの実態であり、第六章が主題化するのは、フィールドワーカーが各地を移動する姿である」。
本書は、2005年に組織された「植民地と学知研究会」を母体とし、2012-14年度におこなわれた「帝国日本のアジア地域における人類学・衛生学に関する歴史研究」プロジェクトの最終成果となる論文集である。母体の研究会が「ゆるやかに集まり、自由に議論をする会」であるため、「各章が分析対象とする領域は多種多様だが、それぞれの学問領域のなかでフィールドワークが果たした役割が分析されることになる」。
共同研究は、代表者の強いリーダーシップのもとで、焦点を絞って議論されることもあるが、本書のテーマのように大きな潮流のなかで議論されても、個別に議論されていないものは、「ゆるやかに」議論するほうが生産的だろう。その場合、共同研究の成果としての論文集は、個々の共同研究員が単著単行本を出すことで、より意義をもつことになる。編著者は、3年後の2019年に『島の科学者-パラオ熱帯生物研究所と帝国日本の南洋研究』(勁草書房)を上梓している。
まず、歴史研究の大きな潮流として「帝国日本」「ポスト帝国」がある。「一九九〇年代以降、日本では、かつて支配下に置いたアジア各地の植民地・占領地の歴史に関する膨大な研究が積み重ねられてきた。こうした植民地・占領地史研究の進展にくわえ、近年では、日本敗戦=植民地帝国崩壊後におけるアジア各国の「戦後」史に関する研究も盛んになって」きている。
つぎに、この大きな潮流の「展開と連動して、九〇年代には、科学史家を含むさまざまな領域の研究者によって、アジア各地の植民地・占領地における学術活動に関する歴史研究も本格的にはじまった。その後、生物学、物理学、化学、医学、工学などのいわゆる科学技術の領域から、歴史学、政治学、法学、経済学などの人文社会科学の領域まで、かつて植民地・占領地で行われたさまざまな分野の学術活動についての検討が進められるとともに、現地に設立された研究教育機関、博物館の歴史など、多様な問題系をめぐって「帝国日本」の学知の政治性が(ママ)[を]問う研究が登場するようになった。こうした「帝国日本」時代の学術活動への関心は、かつて日本の支配下に置かれた東アジア諸国にも共有されており、韓国・台湾・中国においても、植民地・占領地時代の学術活動に関する歴史研究が盛んになっている」。
「本書は、学問領域横断的な形でフィールドワークと「帝国」との関わりを考えようとする、日本ではじめての研究書」で、「カバーする時代は、一九世紀末から戦後、おおむね一九六〇年代までである。基本的には、「帝国日本」時代の植民地・占領地におけるフィールドワークが中心となるが(第一章-第四章)、最後の二章には、「ポスト帝国」時代のフィールドワークに関する論考が置かれる(第五章・第六章)。各章で検討対象となるフィールドワークが実施された地域は、中国大陸および日本国内(第一章)、朝鮮半島(第二章・第三章)、パラオ(第四章)、北海道(第五章)、瀬戸内地方・沖縄・韓国(第六章)だが、フィールド研究者の多くは一ヶ所に留まらず、「帝国」各地を移動しながら調査を実施したので、各章では、必要に応じて彼らの地域間での移動をめぐる問題にも目を向けている」。
「ただし、各章におけるフィールドワークに対する捉え方は大きく異なっている。第一章が扱うのは文献史学を越える可能性をもつ(と考えられた)方法論としてのフィールドワークであるのに対して、第二章におけるフィールドワークとは、極論すれば文献の記述を再確認するための作業にすぎない。さらに第三章におけるフィールドワークは、実験研究と相補うものであり、第四章においては植民地での生活総体がフィールドワークだということになる。また、第五章が焦点を当てるのは研究者のフィールドノートなどから明らかになるフィールドワークの実態であり、第六章が主題化するのは、フィールドワーカーが各地を移動する姿である」。
本書は、2005年に組織された「植民地と学知研究会」を母体とし、2012-14年度におこなわれた「帝国日本のアジア地域における人類学・衛生学に関する歴史研究」プロジェクトの最終成果となる論文集である。母体の研究会が「ゆるやかに集まり、自由に議論をする会」であるため、「各章が分析対象とする領域は多種多様だが、それぞれの学問領域のなかでフィールドワークが果たした役割が分析されることになる」。
共同研究は、代表者の強いリーダーシップのもとで、焦点を絞って議論されることもあるが、本書のテーマのように大きな潮流のなかで議論されても、個別に議論されていないものは、「ゆるやかに」議論するほうが生産的だろう。その場合、共同研究の成果としての論文集は、個々の共同研究員が単著単行本を出すことで、より意義をもつことになる。編著者は、3年後の2019年に『島の科学者-パラオ熱帯生物研究所と帝国日本の南洋研究』(勁草書房)を上梓している。