平川均・町田一兵・真家陽一・石川幸一編著『一帯一路の政治経済学-中国は新たなフロンティアを創出するか』文眞堂、2019年9月25日、254頁、3400円+税、ISBN978-4-8309-5046-9
「はしがき」冒頭、いきなり「中国の「一帯一路」構想は、日本のメディアで批判的に報じられている」と、本書は中国批判ではじまる。「「商業主義」、「滞る一帯一路」、「一帯一路に懸念」などのような見出しをみることが少なくない」とつづく。しかし、本書「第6章 ASEANにおける「一帯一路」構想の現況と課題」の最後のパラグラフでは、「日本の経済協力は初期の時期には日本企業への利益を優先するひも付き援助と批判された」と述べ、「日本のアジアへの投資は、日本から資本財中間財を輸入し、現地の人材を登用せず、技術移転を行わないため、受入国に利益をもたらさないと批判された歴史がある」。「1973年、74年には、タイとインドネシアで激しい反日運動が起きている。BRI[一帯一路構想]への批判は、こうした半世紀前のアジアでの日本批判を思い出させる」とある。半世紀前の日本のことを知らずに、中国批判をすれば、日本にも批判の矛先が向かってくることになる。
本書の概要は、帯の裏に、つぎのようにまとめられている。「中国の提唱する「一帯一路」構想は参加国が70を超え、マレーシアは中止プロジェクトを再開し、EUからはイタリアが参加を決めた。だが「債務の罠」など強い批判もある。壮大な「一帯一路」構想の全体像を、ASEAN、南アジア、欧州、アフリカなどの沿線国の現状、課題を含めて総合的に把握する。新たなフロンティであるインド太平洋構想も考察」。
本書の問題意識、目的は、「はしがき」でつぎのように述べられている。「「一帯一路」構想は多様な要因や目的を背景につくられている。従って、一面のみを取り上げ、評価を行うべきでない。規模の巨大さ、時間軸の長さ、沿線諸国の多さとその経済社会へのインパクトの大きさ、実施している事業の多様性などを考えると、「一帯一路」構想の評価は多面的に行わねばならない。そのためには、「一帯一路」構想自体を多角的に考察し、主要な沿線諸国での一帯一路事業の内容(とくに交通インフラ整備と物流)とその評価、政治経済学的な視点での国際的な意義、開発戦略としての評価、「一帯一路」構想批判とその妥当性など多くの観点から総合的な判断を行うべきである」。
「本書はこうした問題意識にもとづいて、「一帯一路」構想について、一次資料をはじめデータに基づき、全体像を正確かつ総合的に把握し、沿線国を含め「一帯一路」構想の現状を客観的かつ判りやすく示し、問題点および課題を論じることを狙いとしている」。
本書は、2部、全10章からなる。「「一帯一路」構想を考察している」「第1部 「一帯一路」構想とその意義」は4章からなる。「第1章 「一帯一路」構想とアジア経済-新たなフロンティアとその課題-」は、「中国の「一帯一路」構想の誕生の経緯と背景、構想とその特徴、さらに沿線国の対応を考察し、次いで中国の発展をアジアの地域経済の発展の中に位置づける」。「第2章 中国の対外経済戦略と「一帯一路」構想」は、「2000年代以降の「貿易大国化」と「走出去」の加速化、およびFTAネットワークの構築といった「一帯一路」構想の経済的背景並びに歴史的意義を分析する」。
「第3章 「一帯一路」構想で進展するアジア・ユーラシアの物流」は、「交通の視点から、「一帯一路」政策の前提となる国内広域交通幹線の整備の経緯に注目し、各輸送モードや関連する分野の現況を分析する」。「第4章 「一帯一路」構想を巡るファイナンス」では、「「一帯一路」構想の推進が莫大なインフラ投資資金を必要とし、それに応える意味でもファイナンスが極めて重要な役割を担うことを分析している」。
「主要な沿線国・地域の「一帯一路」構想の現状と課題を検討した」「第2部 「一帯一路」構想と世界」は、6章からなる。「第5章 「一帯一路」構想とASEAN連結性-ASEANとしての取り組みと中国への期待-」では、「「一帯一路」構想にとって、東南アジア地域の占める意味は大きく、BRIの経済協力に対してはASEAN加盟国の多くが期待していると評価している」。「第6章 ASEANにおける「一帯一路」構想の現況と課題」では、「ASEANの全加盟国が「一帯一路」構想に参加しており、その狙いはインフラ整備のための資金獲得であるとしている」。
「第7章 「一帯一路」構想と南アジア」では、「南アジア地域の政治経済は中国の進出で大きく揺れ動いていると分析している」。「第8章 「一帯一路」構想と欧州-中国への警戒感と今後の行方-」は、「「一帯一路」構想を掲げる中国がEUで攻勢を強めていることを指摘している」。
「第9章 「一帯一路」構想とアフリカ」では、「「一帯一路」構想がアフリカ諸国にまで延伸しており、既にアフリカ各地で港湾整備や鉄道建設が進められていることを確認している」。「第10章 自由で開かれたインド太平洋構想-その意義、内容、課題-」では、「同構想は、経済成長の極がインド洋周辺国に移動しつつあることへの戦略的対応であることをまず指摘している」。
1997年のアジア通貨危機、2008年のリーマン・ショックなど、先進国などが経済不況になるなか、中国は大きな影響を受けず、飛躍的な経済発展の契機とし、周辺諸国への影響力を強めてきた。2020年の新型コロナウィルスの影響も最初に感染が拡大した国であるのもかかわらず、2~3ヶ月で終息に向かい、経済活動を取り戻しつつある。今回も、大きな影響を受けることなく世界中に影響力を強めるのか、これまでと違い他国の影響が中国にも及び共倒れになるのか、あるいは貧富の差が広がった中国国内でなにかが起きるのか、それによって「一帯一路」構想も変わってくる。本書は、出版後1年も経たないうちに役に立たなくなる可能性がある。年報とまでいかなくても、定期的に改訂版を出す必要がある。
本書の概要は、帯の裏に、つぎのようにまとめられている。「中国の提唱する「一帯一路」構想は参加国が70を超え、マレーシアは中止プロジェクトを再開し、EUからはイタリアが参加を決めた。だが「債務の罠」など強い批判もある。壮大な「一帯一路」構想の全体像を、ASEAN、南アジア、欧州、アフリカなどの沿線国の現状、課題を含めて総合的に把握する。新たなフロンティであるインド太平洋構想も考察」。
本書の問題意識、目的は、「はしがき」でつぎのように述べられている。「「一帯一路」構想は多様な要因や目的を背景につくられている。従って、一面のみを取り上げ、評価を行うべきでない。規模の巨大さ、時間軸の長さ、沿線諸国の多さとその経済社会へのインパクトの大きさ、実施している事業の多様性などを考えると、「一帯一路」構想の評価は多面的に行わねばならない。そのためには、「一帯一路」構想自体を多角的に考察し、主要な沿線諸国での一帯一路事業の内容(とくに交通インフラ整備と物流)とその評価、政治経済学的な視点での国際的な意義、開発戦略としての評価、「一帯一路」構想批判とその妥当性など多くの観点から総合的な判断を行うべきである」。
「本書はこうした問題意識にもとづいて、「一帯一路」構想について、一次資料をはじめデータに基づき、全体像を正確かつ総合的に把握し、沿線国を含め「一帯一路」構想の現状を客観的かつ判りやすく示し、問題点および課題を論じることを狙いとしている」。
本書は、2部、全10章からなる。「「一帯一路」構想を考察している」「第1部 「一帯一路」構想とその意義」は4章からなる。「第1章 「一帯一路」構想とアジア経済-新たなフロンティアとその課題-」は、「中国の「一帯一路」構想の誕生の経緯と背景、構想とその特徴、さらに沿線国の対応を考察し、次いで中国の発展をアジアの地域経済の発展の中に位置づける」。「第2章 中国の対外経済戦略と「一帯一路」構想」は、「2000年代以降の「貿易大国化」と「走出去」の加速化、およびFTAネットワークの構築といった「一帯一路」構想の経済的背景並びに歴史的意義を分析する」。
「第3章 「一帯一路」構想で進展するアジア・ユーラシアの物流」は、「交通の視点から、「一帯一路」政策の前提となる国内広域交通幹線の整備の経緯に注目し、各輸送モードや関連する分野の現況を分析する」。「第4章 「一帯一路」構想を巡るファイナンス」では、「「一帯一路」構想の推進が莫大なインフラ投資資金を必要とし、それに応える意味でもファイナンスが極めて重要な役割を担うことを分析している」。
「主要な沿線国・地域の「一帯一路」構想の現状と課題を検討した」「第2部 「一帯一路」構想と世界」は、6章からなる。「第5章 「一帯一路」構想とASEAN連結性-ASEANとしての取り組みと中国への期待-」では、「「一帯一路」構想にとって、東南アジア地域の占める意味は大きく、BRIの経済協力に対してはASEAN加盟国の多くが期待していると評価している」。「第6章 ASEANにおける「一帯一路」構想の現況と課題」では、「ASEANの全加盟国が「一帯一路」構想に参加しており、その狙いはインフラ整備のための資金獲得であるとしている」。
「第7章 「一帯一路」構想と南アジア」では、「南アジア地域の政治経済は中国の進出で大きく揺れ動いていると分析している」。「第8章 「一帯一路」構想と欧州-中国への警戒感と今後の行方-」は、「「一帯一路」構想を掲げる中国がEUで攻勢を強めていることを指摘している」。
「第9章 「一帯一路」構想とアフリカ」では、「「一帯一路」構想がアフリカ諸国にまで延伸しており、既にアフリカ各地で港湾整備や鉄道建設が進められていることを確認している」。「第10章 自由で開かれたインド太平洋構想-その意義、内容、課題-」では、「同構想は、経済成長の極がインド洋周辺国に移動しつつあることへの戦略的対応であることをまず指摘している」。
1997年のアジア通貨危機、2008年のリーマン・ショックなど、先進国などが経済不況になるなか、中国は大きな影響を受けず、飛躍的な経済発展の契機とし、周辺諸国への影響力を強めてきた。2020年の新型コロナウィルスの影響も最初に感染が拡大した国であるのもかかわらず、2~3ヶ月で終息に向かい、経済活動を取り戻しつつある。今回も、大きな影響を受けることなく世界中に影響力を強めるのか、これまでと違い他国の影響が中国にも及び共倒れになるのか、あるいは貧富の差が広がった中国国内でなにかが起きるのか、それによって「一帯一路」構想も変わってくる。本書は、出版後1年も経たないうちに役に立たなくなる可能性がある。年報とまでいかなくても、定期的に改訂版を出す必要がある。