浅香幸枝編『交差する眼差し-ラテンアメリカの多様な世界と日本』行路社、2019年3月31日、300頁、2800円+税、ISBN978-4-87534-395-0
ともにカトリック修道会を母体とするイエズス会の上智大学イベロアメリカ研究所と神言会の南山大学ラテンアメリカ研究センターとの共同研究の成果が、本書である。日本カトリック大学連盟による「カトリック学術奨励金」をえて、本書の編者、浅香幸枝を研究代表として「イメージの中の日本とラテンアメリカ」研究が運営された。
本書の題名「交差する眼差し」は、「世界の中でも有数の親日地域であるラテンアメリカの実像を知ることは、世界の中での日本の立ち位置を知ることでもある」ことに由来する。本書の意義と独創性は、「人の移動によりラテンアメリカ世界は多様性を維持していると認識し、さらに日本との関係も視野に入れていることである」。また、「観察者、分析者自体が多様な見方をしていることに本書の特徴がある」。
本書は、序章、3部、全14章、終章からなる。第1部「人の移動がつくる世界」は4章、第2部「歴史から読み解く世界」は5章、第3部「課題に挑戦する世界」は5章からなる。序章「ラテンアメリカの多様な世界と日本」と終章「互いに学び合うために」は、編者の執筆による。
その序章で、各部はつぎのようにまとめられている。第1部は、「ラテンアメリカが移民によって形成された世界であることに着目している。日系人人口は、各国でその国民全体の1パーセントにも満たないが、よく現地に適応しており、ラテンアメリカでは中産階級以上の社会的位置づけとなる。日本との関係で核となる日系人について3本の論考を集録している。また、成功する移民として知られる「シリア・レバノン人」を比較で考察している。これらは、いかにして、国際情勢を背景にして移民が現地社会に適応し、自身が出身国から持参した文化や技術などで貢献してきたかを知ることができる。今日日本で外国人単純労働者の受け入れが検討されているが、移民がどれほど困難な中を生き成功をつかんでいくのか、あるいは同胞やホスト社会と助け合っていくのか考えるヒントを与えてくれるだろう」。
第2部は、「現在の問題や課題がどのような歴史的背景を持つのかという視点から編まれたものである。かつて、1492年にコロンブスが「新大陸を発見する」までは、ヨーロッパは、アジア、イスラム世界とほぼ互角の体制だった。ところが、ラテンアメリカが生み出す富により、スペインをはじめとするヨーロッパ世界の国際社会における圧倒的優位が始まっていった。この背景を描き相対化しようという試みである。西洋の富の源泉となったポトシ銀山でつくられた銀貨が世界の基軸通貨として使用され、日本にまで到達したこと。また、日本での布教活動の末、磔刑にされた修道士をめぐるメキシコの壁画、カトリックの宗教行事やラテンアメリカとスペインをつなぐ思想の新しい潮流について各研究は論じ、歴史に基づいたラテンアメリカの現在と将来を展望している。ここでは、ラテンアメリカイメージが、主体によって多様性を持つその背景をよく理解できるだろう」。
第3部は、「山積するラテンアメリカの課題に対して、どのような解決策が試みられ、問題解決を目指したかが明らかになる。先住民、麻薬、暴力、米国への移住などの問題、日本のODAのあり方等は歴史的な背景の中で生じた課題であり、各執筆者は長期的な視野から分析している。さらに実施された政策評価もしている。ここでは、一旦大きくなった格差社会では、国民を統合することが非常に困難であることを示している。また、地続きのラテンアメリカでは隣接する他国との関係を常に考慮しなければならないことがわかる」。
そして、終章では、各部、各章を要約してまとめ、つぎのパラグラフで締め括っている。「14名の研究者の14通りの多様なラテンアメリカ世界と日本の関係についての論考が、今日の流動化の激しい国際社会にあって人が人として尊ばれる道筋に貢献できることを願うものである。ただ、一言申し添えるならば、このような問題があってもラテンアメリカに生きる人たちは、その生活を大事にして楽しんでおり、その生き様はわれわれ研究者だけでなく日本の読者にも示唆を与えてくれるものであると確信している」。
たしかに「日本を入れると書きにくい」ということがわかる。もはや日本とラテンアメリカとの関係だけではわかりにくく、歴史的背景や隣国との関係を含めたラテンアメリカ地域の問題を抜きにして、日本との関係は語れないだろう。また、「日本では戦後第三番目のラテンアメリカブームが始まっている」ということもわからないだろう。