寺島紘士『海洋ガバナンス-海洋基本法制定 海のグローバルガバナンスへ』西日本出版社、2020年5月20日、276頁、2600円+税、ISBN978-4-908443-51-0
本ブログで取りあげたばかりの井田徹治著『追いつめられる海』(岩波科学ライブラリー、2020年)では、「持続可能なブルーエコノミー社会の実現には、海の環境が持つ価値を軽視し続けてきたこれまでの社会や経済システムを根本から転換することが必要となるし、そのためには強い覚悟と政治的な意志が必要になる」と結論した。その「政治的な意志」の中心に20年以上にわたっていたのが、本書の著者、寺島紘士である。
著者は、1994年7月に運輸省を勧奨退職し、翌月に財団法人日本船舶振興会の理事に就任、2002年に設置された海洋政策研究所の所長に就任して17年に退任するまで日本の海洋ガバナンスの中心にいた。
最初にかかわったときのことを、著者はつぎのように回顧している。「海洋ガバナンスの探求という、それまでの仕事とは全く性格の違う未知の分野の活動を開始するとき、私は、それまで運輸省という政府部局で身につけてきた行動方式ではとてもこのような新しい課題に取り組むのは難しいと感じて、これまでの考え方・やり方にはとらわれないで取り組んでいこうと決心した」。「その第一歩が、地球表面の七割を占める海洋のガバナンスという人類初の取り組みに参画するに当たって、自分が重要と思う有識者に直接会い、こちらが考えている取り組みの方向・方法について考えを述べて意見を聴くことだった。それを踏まえてさらに考えて目標を設定し、必要と思う有識者には協力をお願いして、それに向かって行動を開始した」。
本書は、全5章と「あとがき」からなる。第1章「海洋ガバナンスの夜明け」で、著者が「「海洋ガバナンス」に対する取り組みのスタートラインに立った一九九〇年代の後半に立ち戻って海洋についての問題意識の一端を述べ」た後、第2章以下で「海洋のガバナンスについての私たちのこの四半世紀の取り組みを詳しく述べ」ている。
第2章「海洋ガバナンスに取り組む」では、シンク・タンクの海洋政策研究所を設立して、国際的視野で海洋問題に取り組む国内の体制を整えるまでがまとめられ、本書の半分を占める第3章「『二一世紀の海洋政策への提言』から海洋基本法の制定へ」で、2005年の海洋政策研究財団の提言、07年の海洋基本法の施行から18年の第三期海洋基本計画の閣議決定までを詳述している。
第4章「海洋ガバナンスに世界とともに取り組む」では、「国内の取り組みと並行して、海洋に関する国際的な会議に積極的に参画し、国連をはじめとする国際機関、研究期間、各国政府、NGO等の関係者と連携協力・協働して、グローバルおよびリージョナルなレベルの海洋のガバナンスに、どのように取り組んできたかを紹介」している。
わずか5頁の第5章「海洋ガバナンスへの探求-海に魅せられて」は本書の結論に相当し、「1 まだ道半ばの海洋ガバナンス」に、「2 新しい心構えで海洋ガバナンスに取り組む」必要性を説き、「3 シンク・アンド・ドゥー・タンクを目指して」、「4 活動の基盤はグローバルな海洋のネットワーク」の拡大、深化を願っている。
第5章冒頭で述べているように、著者らの努力によって「かなりの進展を見たとは言え、まだまだ道半ばである」。著者は、つぎのようにつづけている。「最近では、人間が排出する温室効果ガスによる気候の温暖化(と言うよりむしろ極端化か)・海洋の酸性化、過剰漁獲・IUU漁業等による私たちの生活に密接な関わりを持つ漁業資源の減少、陸域から大量に流れ込むプラスチック等のゴミによる海洋汚染の深刻化等々海洋をめぐる問題の重大さがますます明らかになってきた」。
本書から、どれだけの人びとがどれだけの時間と労力をかけてこの問題に取り組んできたかがよくわかった。にもかかわらず、「サンマが不漁」なのは、「強い覚悟と政治的な意志」が充分でないからだろうか。海洋の劣化に、ガバナンスが追いついていないのだろう。「大転換」が喫緊の課題であることが、本書からもよくわかった。「海洋ガバナンスの実現に向けた取り組みはまさにこれからが本番である」。