石川幸一・清水一史・助川成也編著『RCEPと東アジア』文眞堂、2022年6月30日、220頁、3200円+税、ISBN978-4-8309-5186-2
RCEP(地域的な包括的経済連携)が、以下の15ヶ国の参加で実現した。それがいかにたいへんなことかを伝えるのが、本書の目的といっていいだろう。帯では、つぎのように紹介されている。
「2022年1月、東アジア初のメガFTA「RCEP」が遂に発効した。ASEAN10カ国、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの15カ国が参加する世界最大のFTAが実現する。日本にとっては、中国、韓国との初のFTAとなる。世界経済と東アジア経済、そして日本経済と日本企業にも大きな意味を持つ」。
当然のことながら、参加国、それぞれにメリットがないと、このメガFTA(自由貿易地域/協定)は実現しなかった。それぞれについて、「はしがき」でつぎのように説明している。
まず、「世界」である。「世界の成長センターである東アジアで、初のメガFTAかつ世界最大規模のメガFTAが実現される。RCEP署名時の共同首脳声明が述べるように、RCEPは世界のGDPの約30%、人口の30%、貿易の28%を占める世界最大の自由貿易協定として、世界の貿易および投資のルールの理想的な枠組みへと向かう重要な一歩である。RCEPの発効により、これまでFTAが存在しなかった日中と日韓のFTAが実現される。東アジア地域協力におけるASEAN中心性も維持される。そして現在の厳しい世界経済下で発効に至ったことが重要である。
つぎに、東アジアにとってである。「第1に東アジア全体で物品(財)・サービスの貿易や投資を促進し、東アジア全体の一掃の経済発展に資する。第2に知的財産や電子商取引など新たな分野のルール化に貢献する。第3に東アジアの生産ネットワークあるいはサプライチェーンの整備を支援する。第4に域内の先進国と途上国間の経済格差の縮小に貢献する可能性がある。
「これまで東アジアの経済統合を牽引してきたASEANにとっては、自らが提案したRCEPが実現され、東アジア経済統合におけるASEAN中心性の維持に直結する。今後、重要なのは、RCEPにおいてASEANがイニシアチブと中心性を確保し続けることである。東アジアの地域協力・経済統合は、中国のプレゼンスが拡大する中で、ASEANが中心となることでバランスが取られている。
「日本にとってもRCEPは大きな意義がある。日本にとってRCEP参加国との貿易は総貿易の約半分を占め、年々拡大中である。RCEPは日本企業の生産ネットワークにも最も適合的である。これまでFTAのなかった日中、日韓とのFTAの実現ともなる。多くの試算において、参加国の中で日本の経済効果が最大とされている」。
「中国にとっても、アメリカとの貿易摩擦と対立を抱える中で、RCEPへの参加と早期の発効が期待された。また日本や東アジア各国にとっても、中国を通商ルールの枠組みの中に入れていくことは、今後の東アジアの通商体制において重要であろう」。
「はしがき」では、韓国、オーストラリア、ニュージーランドについては書かれていないが、第1章「RCEPの意義と東アジア経済統合」では、つぎのように書かれている。「韓国にとっても、これまでなかった日本とのFTAが結ばれる効果が得られる。貿易の拡大とともに、域内へのサービスや投資の拡大とルール整備も、韓国経済と韓国企業に恩恵となるであろう」。
「オーストラリアとニュージーランドにとっても、東アジアのメガFTAに入る意味は大きい。両国のRCEP各国との貿易の割合は大きく、域内への輸出やサービスの拡大も期待される。オーストラリアとニュージーランドが求めてきたルール整備の恩恵も、得られるであろう」。
また、2013年からおこなわれてきた交渉から19年に離脱したインドについては、「いつでもRCEPに戻ることができる仕組みになっている」。詳しくは、第5章「RCEPとインド」で述べられている。
そして、本書の意義について、「はしがき」で、つぎのようにまとめている。「本書は、このように世界と東アジアの経済、日本経済、東アジアの通商秩序にきわめて重要な意義を持つRCEPを、多角的に考察している。RCEPには多くの考察すべき課題がある。RCEPがどのような経緯でASEANにより提案され交渉が進められてきたのか、RCEPの意義や課題は何か、東アジア各国にとってRCEPはどのような意味を持つか、RCEPの規定はどのようなものであるか、また日本経済や日本企業にとってどのような意味があるか等である。更にRCEPの貿易効果とサプライチェーンへの影響の考察や、国際政治からのRCEPの考察も必要である。本書は、それらに応えるために、国際経済・アジア経済とともに国際政治を含めた多くの専門家が執筆している」。
本書は、3部全11章からなる。第Ⅰ部「RCEPと東アジア」は第1~5章の5章からなる。第Ⅱ部「RCEP規定と企業活動」は第6~8章の3章からなる。第Ⅲ部「RCEPの展望と課題」は第9~11章の3章からなる。
最終章である第11章「RCEPの課題」では、6つの節に分けて課題を整理している:「RCEP協定の着実な履行と質の高いFTAへの改善」「発効後のASEAN中心性の維持」「CLMV[カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム]を支援するための協力」「対話と交渉の場の確保と活用」「インドの復帰」「参加国・地域の拡大」。
参加国にとって重要であるからこそ、そのリスクへの対応もあらかじめ考えておかなければならない。最大の課題は、「着実な履行」である。その背景には、中国の「経済制裁」や「コロナ対策」などで、港や国境の通関で大量の生鮮食料品が検査待ちのあいだに腐っている現実がある。中国は経済大国であると同時に軍事大国でもある。その中国がRCEPに参加している意義はきわめて大きい。そのいっぽうで、「中国対策」がほかの国ぐににとって最大の課題となる。
その意味でも、日本の役割は大きく、つぎの文章で本書は終わっている。「日本にとってRCEP参加国との貿易は総貿易の約半分を占め、年々拡大中である。これまでFTAのなかった日中と日韓のFTAの実現でもある。RCEPは、日本経済にも日本企業にも大きな経済効果を与える。また日本は保護主義に対抗し、CPTPP[環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定]と日本EU・EPA[経済連携協定]を発効させた。RCEPは東アジアにおける重要なメガFTAの発効となった。日本は、RCEPのメガFTA連携にも貢献できる。日本は、さらに保護主義に対抗して、貿易や投資の自由化と通商ルール化を推し進めていかなければならない。そしてRCEPの主要なメンバーとして、RCEPの一層の進展を支えていくこと、同時にRCEPにおけるASEAN中心性を支えていくことが、日本の重要な課題である。今後のRCEPの進展において、日本は重要な鍵を握っている」。
参加国のなかで、日本がRCEPの最大の恩恵を受けるといわれている。その成功は、日本がさらに外国に依存し、自給率が低下することを意味している。リスクももっとも大きいといっていい。ASEANは、そのことがわかっているから、域内、中国、日本、EU、アメリカなどバランスよく貿易をおこなっている。「日本は、さらに保護主義に対抗して、貿易や投資の自由化と通商ルール化を推し進めていかなければならない」背景を、深刻に考えていかなければならないだろう。
「地域的な包括的経済連携」と呼んでもわからないので、「アールセップ」と呼ぶしかないだろう。
評者、早瀬晋三の最近の著書・編著書
早瀬晋三『すれ違う歴史認識-戦争で歪められた歴史を糺す試み』人文書院、2022年1月20日、412頁、5800円+税、ISBN978-4-409-51091-9
早瀬晋三『東南アジアのスポーツ・ナショナリズム-SEAP GAMES/SEA GAMES 1959-2019年』めこん、2020年、383頁、4000円+税、ISBN978-4-8396-0322-9
早瀬晋三『グローバル化する靖国問題-東南アジアからの問い』岩波現代全書、2018年、224+22頁、2200円+税、ISBN978-4-00-029213-9
早瀬晋三編『復刻版 南洋協会発行雑誌-『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』-』(龍溪書舎、2021年4月~ )全30巻+『南洋協会発行雑誌(『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』1915~44年) 解説・総目録・索引(執筆者・人名・地名・事項)』(龍溪書舎、2018年1月)全2巻。
早瀬晋三編『復刻版 ボルネオ新聞』龍渓書舎、2018~19年、全13巻+『復刻版 ボルネオ新聞(1942~45年) 解題・総目録・索引(人名・地名・事項)』龍渓書舎、2019年、471頁。