藤井誠一郎『ごみ収集の知られざる世界』ちくま新書、2024年10月10日、234頁、880円+税、ISBN978-4-480-07652-6
「はじめに」の最後で、著者は本書の目的を、つぎのように述べている。「この本を通じて、多くの人が清掃事業について興味を持ってもらえることを期待している。そしてごみの向こうにいる人たちが日々あくせく働いていることを理解し、自らの排出行為を振り返ることを入り口として、多岐にわたる清掃事業に参加していくようになることを祈っている」。
本書の概要は、表紙見返しにつぎのようにまとめられている。「あなたが今捨てたそのごみはどう集められ、どう処理され、最終的にどこへいくか知っていますか? 自宅、会社、外出先それぞれで、実はごみの扱いも異なってくる。地域によっても特色があり、様々な工夫がなされているが、それには従事する人の頭と力が必要となる。もちろん環境や持続可能性を考えるなら、掘り下げる余地はまだまだある。自ら北へ南へ赴いて体験することで見えてきた、奥深い世界を紹介する」。
その「奥深い世界」は、著者自らの体験を通したものである。著者は、「二〇一六年六月から翌三月までの一〇ヵ月間、新宿区の新宿東清掃センターに週一回通い、清掃車に乗務して現場を学んでいった。雨の中の収集、炎天下での収集、寒空の中での収集を経験した。ごみ汁を被ったこともあるし、怪我をしかけたこともあった。ごみについては全くの素人であったが、この調査で業務や業界にかなり精通するようになり、清掃行政について語れるまでになった」。
その後も、機会あるごとに自分で体験し、「二〇二一年一〇月から二〇二二年三月まで神奈川県座間市のクリーンセンターにてタブレットを利用したごみ収集を体験」している。それらの体験にもとづいた記事を、2021年から「東洋経済オンライン」に「ごみ収集の現場から」と題して月1回連載している。著者が、「清掃業界を勉強した成果を発信する場となっており、清掃行政の研究を進めていくための情報収集や視野を広げる上で絶好の機会になっている」。
本書は、それらの記事から「多岐にわたる清掃事業を五つの側面から整理」したもので、はじめに、全5章、おわりに、などからなる。5章のタイトルは、つぎの通りである:「「あなたが出したごみがどうなるか」知ってますか」「ごみ収集にかかわる仕事はいろいろありすぎる」「ごみと地域は表裏一体」「一緒に考えるごみと持続可能性」「これからのごみの話をしよう」。
著者は、「おわりに」で、「全体を通じて二つの大きな流れに沿って話が展開されていたのではないかと考えている」と総括している。「第一は、私たちのごみの排出について再考を促すという流れである。ほとんどの記事には、ごみが排出された先にいる清掃労働者がそれぞれの職場でどのような気持ちで自らの業務に向き合っているのかを現場目線で可能な限り描いている。よって、自らの排出行為が現場労働者を苦しめ落胆させるのみならず、杜撰な排出行為によってごみが排出できなくなる可能性や、自治体の福祉サービス水準を低下させることもありうると認識して頂けたのではないかと思っている。「自治体が定めるルールに基づいて排出する」という単純明快な決まり事をふつうに実践していくことが、清掃労働者の現場での苦労を緩和し、持続的な清掃事業が展開されていくもととなる」。
「第二は、清掃事業従事者へのリスペクトを促すという流れである。ごみ収集や屎尿収集といった清掃労働には臭いが伴う。圧倒的に皆さんの認識が欠けている点としては、清掃労働者が臭いのではなく排出されたごみや屎尿が臭うのである」。「にもかかわらず、臭いものや不要なものを扱うということからその従事者が見下げられるという社会的風潮がある。本書では屎尿収集に携わっている方々の努力により職業差別を乗り越えようとしている状況を述べたが、その前に私たちの清掃労働者へ向ける意識を変えていく必要がある。今後も人口減少が進み労働力不足に陥ると推測されているが、私たちの生活にとって必要不可欠な清掃従事者をしっかりと確保して持続可能な公共サービスにしていくためにも、清掃従事者を大切にし、しっかりと護っていく必要がある。その意味で清掃従事者の労働実態や業務への思いを理解してもらうことで、彼ら彼女らへのリスペクトが促されればと思っている」。
そこで提案である。いま高校授業料無償化が議論されているが、それは高校生の勉学を国や社会が支えていこうということを意味している。ならば支えられる高校生自身が、国や社会がなにを期待しているのかを理解しなければならない。「他人事じゃない 課題が山積み!」のなかで、高校生のときに肌で感じてほしいことが、介護やこのごみの現状と未来である。すぐに義務化、単位化とはいかないだろうが、ごみパト(パトロール)などできることからボランティアでおこない、さらに発展して夏休みなどでアルバイトするというのはどうだろうか。
具体的に管轄する行政としては、都道府県となるだろう。都道府県立高校が多く、県内でも都市と地方では事情が異なるので、県内をひとつの単位として取り組んではどうだろうか。高校生は1年を通じて活動をすることが困難であるから、シニア・ボランティアと組んではどうだろうか。シニア・ボランティアが指導役となり、年間を通じた活動ができ、日ごろできないことを高校生とともにおこなう。さらにアルバイトで通常の業務を補うことができれば、職場にも余裕が生まれる。シニアと高校生の世代間交流の場ともなる。もちろん、体験した高校生のごみの出し方は変わり、清掃従事者へ向けるまなざしも変わってくる。なにより、国や社会が高校生に期待していることが伝われば、授業料を無償化する意味が充分に理解される。
評者、早瀬晋三の最近の著書・編著書
早瀬晋三『すれ違う歴史認識-戦争で歪められた歴史を糺す試み』人文書院、2022年、412頁、5800円+税、ISBN978-4-409-51091-9
早瀬晋三『東南アジアのスポーツ・ナショナリズム-SEAP GAMES/SEA GAMES 1959-2019年』めこん、2020年、383頁、4000円+税、ISBN978-4-8396-0322-9
早瀬晋三『グローバル化する靖国問題-東南アジアからの問い』岩波現代全書、2018年、224+22頁、2200円+税、ISBN978-4-00-029213-9
早瀬晋三『1912年のシンガポールの日本人社会-『南洋新報』4-12月から-』(研究資料シリーズ11)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2025年2月、159頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできるhttps://waseda.repo.nii.ac.jp/records/2004934)
早瀬晋三『戦前期フィリピン在住日本人職業別人口の総合的研究』(研究資料シリーズ10)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2024年3月、242+455頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできるhttps://waseda.repo.nii.ac.jp/records/2001909)
早瀬晋三『電子版 戦前期フィリピン在住日本人関係資料:解説、総目録』(研究資料シリーズ9)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2023年3月、234頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできる https://waseda.repo.nii.ac.jp/search?page=1&size=20&sort=controlnumber&search_type=2&q=4989)電子版の発行は中止。
早瀬晋三編『復刻版 南洋協会発行雑誌-『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』-』第1期(大正期)全12巻(龍溪書舎、2021年4月~23年1月)、第2期(昭和期)電子版(龍溪書舎、2023年12月)+『南洋協会発行雑誌(『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』1915~44年) 解説・総目録・索引(執筆者・人名・地名・事項)』(龍溪書舎、2018年1月)全2巻。
早瀬晋三編『復刻版 ボルネオ新聞』龍渓書舎、2018~19年、全13巻+『復刻版 ボルネオ新聞(1942~45年) 解題・総目録・索引(人名・地名・事項)』龍渓書舎、2019年、471頁。
早瀬晋三「戦前期日比混血者の「国籍」について」『アジア太平洋討究』第49号(2024年10月)pp.1-17. https://www.jstage.jst.go.jp/article/wiapstokyu/49/0/49_1/_pdf/-char/ja
早瀬晋三「『南洋日日新聞』(シンガポール、1914-41年)を読むための覚書」『アジア太平洋討究』第48号(2024年3月)pp.1-66. https://www.jstage.jst.go.jp/article/wiapstokyu/48/0/48_1/_pdf/-char/ja
早瀬晋三「消える近代日本・東南アジア関係史研究-アジア史のなかの東南アジアを考える」『史學雜誌』第133編第7号(2024年7月)pp. 43-46.
早瀬晋三[書評]:太田出・川島真・森口(土屋)由香・奈良岡聰智編著『領海・漁業・外交-19~20世紀の海洋への新視点』(晃洋書房、2023年)『社会経済史研究』Vol.90, No.2(2024年8月)pp.160-64.