2025年05月
櫻田智恵『国王奉迎のタイ現代史-プーミポンの行幸とその映画』ミネルヴァ書房
瀬田真『海洋法』弘文堂
山口淳『軍都久留米-近代都市への転換と地域の人々』花乱社
山口淳『軍都久留米-近代都市への転換と地域の人々』花乱社、2024年3月11日、306頁、2500円+税、ISBN978-4-910038-88-9
久留米市立中央図書館で見つけ、市内の書店で探したがなかった。地方に行くと地元の書店で店員に地元の書籍コーナーはないか尋ねる。ないところもあり、あっても観光ガイド本しかないところが多い。そんななかで地元で出版された本があると、その街の文化が伝わってくる。本書は、福岡市で発行されており、博多駅前の本屋にはあった。その前に、「日本の古本屋」で、早稲田の古書店にあることがわかり、「帰宅途中に受けとります」とメッセージを入れておいた。定価よりだいぶ安く購入することができた。
本書は、久留米に生まれ育ち、久留米市の埋蔵文化財発掘調査員を定年近くまで勤め、その後6年間市立図書館に勤めた著者が、元職場の人びとの協力を得て書いたもので、久留米が文化都市でもあることがわかる。
本書の概要は、表紙見返しに、つぎのようにまとめられている。「日清・日露戦争後の師団・聯隊増設の国策に伴い、軍隊を誘致した久留米。広大な土地の献納と多額の寄附金をもっての、官民挙げての活動の成果であった」。「建設工事や各種手配などで国・軍部の意向に時に翻弄されながらも、街は道路や通信などインフラが急速に整備され、活況を呈してゆく。そして物価高騰や地域・業種間など様々な格差、農地減少と離農、水源枯渇など〝負〟の代償も-」。「藩政末期から戦後の軍部解体期まで、資料で辿る国内有数の軍都の姿」。
本書の目的は、「はじめに」でつぎの3つであったことが書かれている。まず「全国に展開した陸海軍と地域との課題を論究していこうとする」もので、「久留米という地域が、どのように「軍都」に成っていったのか、どのように変貌したのか、ここで、今一度、軍部としての発展の具体的な姿を都市形成の観点も含めて見つめ直そうとするものである。次に、久留米の人々は、どのように軍・兵隊たちと接してきたのかを論じていく。三つ目に、ややもすると、「軍都」に成ったことによって、その都市は発展した、との考えを見つめ直すこととする。軍からの利益を享受し、発展したことに相違はない。しかし、確かにそうではあるものの、「陰」となった点も多く存在する。軍都として発展したということのみに気をとられてはなるまい。兵営の「表」になれば新たな町が形成もされた。だが、「裏」になればそうはならない。兵営、あるいは演習場が設置されることは、土地を奪われることでもある。このような「陰」をも含めて、「軍都久留米」を見つめ直していく」。
本書は、はじめに、全9章、終章などからなる。前半の5章(「軍都の舞台・久留米」「軍隊の誘致」「軍は地域に何を求めたか」「兵営の建設」「かくして軍都となった」)は時系列に軍都となる過程を追い、後半の4章(「久留米への選地理由」「軍は何をもたらしたか 久留米市の発展」「地域の人々と軍隊」「発展の陰で」)で故郷久留米を見つめ直している。そして、終章「「軍都久留米」の終焉」で、戦後の久留米を辿る。
終章「3 その後の久留米」で、つぎのように総括している。「明治維新を迎えるまでの久留米は「城下町」と称される。明治三十年からは「軍都」と称された。それ以降、『久留米市史』を始め、その時の久留米市に関して定型的に形容する呼称は見かけない。しかし、「ゴム三社」という言葉に代表されるように、久留米を代表する産業は、このゴム産業である。戦時中、久留米のゴム産業は軍需産業に指定されることによって、生き残った。それ以上に戦争による需要によって拡大した。そして、戦後、民需への転換を果たした。高度成長期の頃まで、国鉄久留米駅の通勤風景は、駅を出た集団が大きく右と左に分かれたと聞く。駅を背にして左がブリヂストンとアサヒ、右が月星である。この時期、「ゴムの町」と一定は形容されていた。軍隊無き後、久留米に育ったゴム産業が、確かに久留米のその後を牽引したのである」。
著者は、「はじめに」の最後に、「本書は、軍都について幾つもに分散して書かれていたものを、一つにまとめたもの程度であるかもしれない。ただ、それはそれで、便利な本となっていればよい」と述べている。「便利な本になっている」ことはたしかで、著者はそれに自信をもっているから、「おわりに」でも繰り返し書いている。
そして、つづけてつぎのように心配している。「本文中に多くの資料を引用した。このことが読みづらさとなったのではないかとも思うが、できるだけ「生」の資料を提示して、後の考究の一助になればと願ったからである。意のあるところをお汲みいただければ幸いである」。歴史研究者にとっては信頼の証であるが、一般読者には「邪魔」だっただろう。一般読者は、引用文を飛ばして読めばいい。そのためにも、著者は引用の前後にかいつまんで内容を紹介する必要がある。
副題に「地域の人々」とある。ひとが見えるものはいい!
評者、早瀬晋三の最近の著書・編著書
早瀬晋三『すれ違う歴史認識-戦争で歪められた歴史を糺す試み』人文書院、2022年、412頁、5800円+税、ISBN978-4-409-51091-9
早瀬晋三『東南アジアのスポーツ・ナショナリズム-SEAP GAMES/SEA GAMES
1959-2019年』めこん、2020年、383頁、4000円+税、ISBN978-4-8396-0322-9
早瀬晋三『グローバル化する靖国問題-東南アジアからの問い』岩波現代全書、2018年、224+22頁、2200円+税、ISBN978-4-00-029213-9
早瀬晋三『1912年のシンガポールの日本人社会-『南洋新報』4-12月から-』(研究資料シリーズ11)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2025年2月、159頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできるhttps://waseda.repo.nii.ac.jp/records/2004934)
早瀬晋三『戦前期フィリピン在住日本人職業別人口の総合的研究』(研究資料シリーズ10)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2024年3月、242+455頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできるhttps://waseda.repo.nii.ac.jp/records/2001909)
早瀬晋三『電子版 戦前期フィリピン在住日本人関係資料:解説、総目録』(研究資料シリーズ9)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2023年3月、234頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできる https://waseda.repo.nii.ac.jp/search?page=1&size=20&sort=controlnumber&search_type=2&q=4989)電子版の発行は中止。
早瀬晋三編『復刻版 南洋協会発行雑誌-『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』-』第1期(大正期)全12巻(龍溪書舎、2021年4月~23年1月)、第2期(昭和期)電子版(龍溪書舎、2023年12月)+『南洋協会発行雑誌(『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』1915~44年) 解説・総目録・索引(執筆者・人名・地名・事項)』(龍溪書舎、2018年1月)全2巻。
早瀬晋三編『復刻版 ボルネオ新聞』龍渓書舎、2018~19年、全13巻+『復刻版 ボルネオ新聞(1942~45年) 解題・総目録・索引(人名・地名・事項)』龍渓書舎、2019年、471頁。
早瀬晋三「戦前期日比混血者の「国籍」について」『アジア太平洋討究』第49号(2024年10月)pp.1-17. https://www.jstage.jst.go.jp/article/wiapstokyu/49/0/49_1/_pdf/-char/ja
早瀬晋三「『南洋日日新聞』(シンガポール、1914-41年)を読むための覚書」『アジア太平洋討究』第48号(2024年3月)pp.1-66. https://www.jstage.jst.go.jp/article/wiapstokyu/48/0/48_1/_pdf/-char/ja
早瀬晋三「消える近代日本・東南アジア関係史研究-アジア史のなかの東南アジアを考える」『史學雜誌』第133編第7号(2024年7月)pp. 43-46.
早瀬晋三[書評]:太田出・川島真・森口(土屋)由香・奈良岡聰智編著『領海・漁業・外交-19~20世紀の海洋への新視点』(晃洋書房、2023年)『社会経済史研究』Vol.90, No.2(2024年8月)pp.160-64.