岡本正明・中西嘉宏・大庭三枝編『現代東南アジア政治』(地域研究のファーストステップ)法律文化社、2026年1月20日、229頁、2700円+税、ISBN978-4-589-004448-8
本書は、「世界各国や地域の政治・社会を基礎から学ぶ入門テキスト」である「地域研究のファーストステップ」の1冊として出版され、「大学で東南アジア政治を初めて学ぶ学部生を対象としている」。
「はしがき」では、「21世紀の東南アジア政治を学ぶ」の見出しのもと、世界政治、世界経済、日本との関係の概略を説明した後、本書の目的を「皆さんに東南アジアの政治や国際関係を知ってもらうことである」とし、つぎのように説明している。「ダイナミックに変容が始まった21世紀以降に着目し、そのダイナミズムを理解するうえで大事だと思えるテーマを取り上げている。経済成長を続け、若者層が多く、都市化やデジタル化が急速に進んでいて、日本以上にダイナミックに社会が変わる、その面白さを理解してもらいたい」。
つづけて、具体的な問題を、つぎのように取りあげている。「面白いといっても、よいことばかりではない。国内政治にも国際関係にも課題は多い。民主化は停滞している。経済格差は大きくなり、汚職も蔓延している。軍隊の政治関与が目立ち、内戦が続く国もある。森林破壊、大気汚染などの環境問題も深刻である。国際関係に目を向けると、この地域の国々は必ずしも結束しているわけではなく、地域機構である東南アジア諸国連合(ASEAN、アセアンと読む)の存在意義を疑問視する声もある。成長著しく将来が明るくみえる国々の負の側面にも本書は光を当てよう」。
本書の特徴は、「21世紀に入ってからのこの地域の政治をイシュー別に取り上げた点で」、つぎのように説明している。「1カ国ずつ取り上げると、それぞれの国の政治的特徴はよく分かるものの、読者が東南アジア政治の全体の特徴を理解するのが難しくなってしまう。東南アジア諸国の国内政治や国際関係を考えたときに共通して重要なテーマを取り上げたほうが学べることが多いと考えたからである。とりわけ、1997年のアジア通貨危機以後の東南アジアは、政治体制は多様でありながらも類似性も多いので、テーマ別に取り上げても例外的な国というのがあまりない。このことは本書を読んでもらうとよく分かる」。
本書は、はしがき、4部全13章、4コラムなどからなる。第Ⅰ部「歴史」は第1-2章の2章からなり、「21世紀以前の東南アジア政治の概論である」。第1章「東南アジア世界の形成」が「独立までの時代を扱い」、第2章「国民国家の時代」が「独立後から20世紀末までの時代を取り上げる。どちらの章も、第Ⅱ部から第Ⅳ部で扱うテーマを意識して書くことで、21世紀の東南アジア政治をより良く理解できるようにしている」。
第Ⅱ部「国家」は、第3-6章の4章と1コラムからなり、「東南アジアの政治のうち、国家に関わるテーマを解説している」。第3章「政治体制の変動-民主主義は持続可能か?」は、「東南アジアでみられる政治体制のダイナミズムを分析している」。第4章「経済成長と政治-国が豊かになるための条件は何か?」は「経済成長に果たす国家の役割を論じ」、第5章「汚職・腐敗問題-なぜなくならないのか?」は「蔓延する汚職問題に切り込んでいる」。第6章「政軍関係-文民統制こそが「非常識」?」は、「軍が国防以外に果たす役割を論じている」。
第Ⅲ部「社会」は第7-10章の4章と1コラムからなり、「社会や生態に関わるテーマを取り上げている」。第7章「ジェンダー-格差をなくす政治は可能か?」は、「ジェンダーをめぐる政治を分析している」。第8章「暴力と平和-民族・宗教紛争はなぜ起きるのか?」は、「未だに続く民族・宗教紛争の背景と分析の視点を示している」。第9章「環境と政治-民主主義は環境を守るのか?」は、「森林破壊などの環境悪化を生み出す政治の特徴と対策を明らかにしている」。第10章「デジタル化-オンライン空間は民主的か?」は、「急速に進むデジタル化と民主化との関係を論じている」。
第Ⅳ部「国際関係」は第11-13章の3章と2コラムからなり、「東南アジアを取り巻く国際政治を扱っている」。第11章「ASEAN-地域協力のための制度とは?」では、「この地域で最も重要な地域機構であるASEANの変容を取り上げている」。第12章「東南アジアと日本-両者の関係はどのように変化してきたのか?」では、「21世紀に入ってからの東南アジアと日本の関係の変化の特徴を明らかにしている」。第13章「東南アジア諸国間関係-中小国が国際関係を動かす?」は、「中小国からなる東南アジア域内の国際政治を論じている」。
そして、つぎのようにまとめている。「日本にとってますます重要になる21世紀東南アジアの政治のダイナミズムを理解するうえで本書が役に立つことを願っているし、本書がこの地域への関心を高め、旅行し、現地の人々と交流する窓口になることを期待している」。
「はしがき」は4頁である。導入部として簡潔であるが、この導入にたいして、本書を読み終えた後の学生が、なにをどう考えたらいいのかの「おわりに」がない。「はしがき」で「結論」を述べ、各章でそれを確認していくなら、「はしがき」を充実したものにすればいい。だが、本書のように「はしがき」が簡潔だと、読後に確認してもらう「おわりに」を充実する必要がある。極端なことをいえば、「はしがき」と「おわりに」を読んで理解すれば、単位が取れるようにするというのが学生に「親切」というものだ。
※ 大阪府豊中市(千里中央)に転居しました
評者、早瀬晋三の最近の著書・編著書
『アジア太平洋討究』第52号(早瀬晋三教授退職記念号)、2026年1月、462頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできるhttps://www.jstage.jst.go.jp/browse/wiapstokyu/52/0/_contents/-char/ja)
早瀬晋三『すれ違う歴史認識-戦争で歪められた歴史を糺す試み』人文書院、2022年、412頁、5800円+税、ISBN978-4-409-51091-9
早瀬晋三『東南アジアのスポーツ・ナショナリズム-SEAP GAMES/SEA GAMES 1959-2019年』めこん、2020年、383頁、4000円+税、ISBN978-4-8396-0322-9
早瀬晋三『グローバル化する靖国問題-東南アジアからの問い』岩波現代全書、2018年、224+22頁、2200円+税、ISBN978-4-00-029213-9
早瀬晋三『戦前期東南アジア海域における日本人漁業活動の基礎資料』(研究資料シリーズ12)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2026年2月、179頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできるhttps://waseda.repo.nii.ac.jp/records/2007415)
早瀬晋三『1912年のシンガポールの日本人社会-『南洋新報』4-12月から-』(研究資料シリーズ11)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2025年2月、159頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできるhttps://waseda.repo.nii.ac.jp/records/2004934)
早瀬晋三『戦前期フィリピン在住日本人職業別人口の総合的研究』(研究資料シリーズ10)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2024年3月、242+455頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできるfile:///C:/Users/shaya/Downloads/KenkyuShiryoSeries_10_02.pdf)
早瀬晋三『電子版 戦前期フィリピン在住日本人関係資料:解説、総目録』(研究資料シリーズ9)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2023年3月、234頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできる https://waseda.repo.nii.ac.jp/records/78131)電子版の発行は中止。
早瀬晋三編『復刻版 南洋協会発行雑誌-『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』-』第1期(大正期)全12巻(龍溪書舎、2021年4月~23年1月)、第2期(昭和期)電子版(龍溪書舎、2023年12月)+『南洋協会発行雑誌(『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』1915~44年) 解説・総目録・索引(執筆者・人名・地名・事項)』(龍溪書舎、2018年1月)全2巻。
早瀬晋三編『復刻版 ボルネオ新聞』龍渓書舎、2018~19年、全13巻+『復刻版 ボルネオ新聞(1942~45年) 解題・総目録・索引(人名・地名・事項)』龍渓書舎、2019年、471頁。