高橋哲哉『沖縄について私たちが知っておきたいこと』ちくまプリマー新書、2024年5月10日、162頁、800円+税、ISBN978-4-480-68479-0

 本書の目的は、「まえがき」でつぎのように説明されている。「本書は、沖縄の基地問題をテーマとしていますが、いわゆる「国際政治学」や「軍事的安全保障論」の立場から専門的議論をするものではありません」。「筆者は「国家と犠牲」をめぐる思想的諸問題と格闘するなかで、戦後日本国家の「犠牲のシステム」としての「沖縄の基地問題」にぶつかりました。そしてこの問題は、何よりも日本本土の一市民である筆者にとって、避けられない問題であることに気づかされたのです」。「沖縄では、沖縄への長年の基地集中とその過剰な負担への本土の無関心は、沖縄に対する差別の結果だという意識が広まっています。なぜそのような意識が生じるのか、そこにはどんな歴史的および構造的理由があるのか。そのことについて、筆者の見方をあえて率直に記したのは本書です」。

 本書は、「まえがき」、全3章と「対話」からなる。第一章「沖縄の歴史」で通史的に概観した後、第二章「構造的差別とは何か」で、まず「沖縄戦後に「戦後」は来たか」と問いかけている」。答えは、もちろん「来ていない」で、章の最後で、つぎのようにまとめている。

 「このように見てくれば、現在の日米安保体制下での在日米軍基地のあり方に根本的な矛盾が横たわっていることに気づくでしょう。日本の人口の九九%(有権者数でもほぼ同じ)を占める本土の人びとの政治的意思で選択され、その八割を超える圧倒的多数で支持され、今後も維持されていくだろう安保体制のもとで、人口・面積ともわずか一%程度の小さな沖縄に、全体の七割を超える米軍基地(米軍専用施設)が置かれているという矛盾です。日本国民が日米安保体制を支持するということは、日本に米軍基地を置くことを支持するということにほかなりません。その安保体制の支持者の九九%は本土にいます。ところがその本土には、防衛省のデータが示すように、米軍専用施設のない府県が三四もあります。米軍専用施設の七割は、七〇年以上も米軍基地負担に苦しみ、反対の声を上げ続けてきた沖縄にあるのです」。

 「この矛盾、巨大な不平等の体制こそ、沖縄に対する「構造的差別」と言われているものです。日米安保体制は、沖縄を犠牲として成り立つ「犠牲のシステム」だと言うこともできるでしょう。そしてこれは、琉球併合にまで遡る日本の沖縄に対する植民地主義の現在的形態だと捉えることが可能です」。

 第三章「沖縄から問われる「構造的差別」」は、「本土から「押しつけ」られている」の見出しの下、つぎのような文章ではじまる。「戦後長く今日に至るまで、米軍基地(米軍駐留)から生じる事件・事故、その他多くの負担に苦しんできた沖縄。現在でも本土に比して桁違いの過剰な基地負担に苦しむ沖縄」。「この現実はけっして自然にできたものでも偶然こうなったものでもなく、本土の基地を整理縮小する一方で、本土の部隊を沖縄に移したり沖縄の基地を固定化したりするなど、差別的な基地政策によってもたらされた面があるのでした」。

 「こうした事情は、近年では多少とも改善されつつあるのかもしれません」と、章の最後で述べるものの、「構造的差別」はつづいていることを、つぎのように述べている。「辺野古の新基地施設(普天間飛行場の「県内移設」)を強行しようとする政府と、それに反対する沖縄の民意との対立が長く激しく続いたことで、本土メディアの報道が増えたとすれば皮肉なことではあります。先に見た世論調査に表れていたように、本土でも沖縄への基地集中はよくないと考える人びとが増え、沖縄の基地の一部を本土が負担することに賛成する人も決して少なくないことは歓迎すべき事実です。問題は、にもかかわらず、自分の住む地域に沖縄の基地を受け入れることには多くの人がなお賛成できないでいることです。日米安保体制(日米安保条約に基づく「日米同盟」)を支持するということは、日本に米軍が駐留すること、米軍基地を置くことを認めるということです。そうした人々が圧倒的多数でありながら、米軍基地を自分の住む地方に置くことには多くの人びとが反対する。この根本的な矛盾の結果として、在日米軍基地の多くが沖縄という小さな地域に押しつけられてきたわけです」。

 そして、つぎのように結んでいる。「日本政府の安全保障政策とそれを支持する本土有権者の政治的選択の結果として、数十年にわたって沖縄は「基地の島」という苦境に追いやられてきました。このままでよいはずはありません。今からでも積極的に沖縄の歴史と現実を知り、沖縄を犠牲にしてきた政治を変えていくことが求められているのだと思います」。

 そして、最後に「まえがき」で述べた「本土に住む筆者の見方ですから、まだまだ「見えていない」部分もあることでしょう」を補う意味で、「一九六六年、琉球列島米国民政府(USCAR)下の沖縄島首里に生まれた琉球人」知念ウシとの「対話 沖縄へのコロニアリズムについて」を掲載している。

 知念は、つぎのことばで「対話」を結んでいる。「沖縄では生まれたときから基地のことで悩んでいるし、リスクを抱えているのに、ヤマトゥではほとんどの人が考えてもいないわけで、同じ国とは思えないほどの意識の差があります。ヤマトゥの人は私たちの顔の上に立っているという感じがするんですよ。私たちの顔を踏んで、基地のほとんどない本土にいる。これを変えてほしいし、変えないといけない。そうでないと、基地問題も解決に向かっていかないし、人間として対等な存在だとは言えない。それは我慢できないんです」。

 活字になると、知念さんの念いが伝わらないような気がした。独特のイントネーションで、強弱をつけた怒りが伝われば、本土の人びとも「沖縄の問題」は自分たちを含めた「日本の問題」であることに少しは気づくだろう。沖縄の「基地問題」がすぐに解決できないのなら、せめてはっきり目に見えるかたちで、基地負担に沿った税負担を考え、基地のない県民は多く払い、基地の多い県民は少なく払うか、あるいはキャッシュバックすることにして、個々人が実感することが必要だろう。定額減税をわかりやすくするために給与明細に書くのなら、基地負担を給与明細に書くことによって本土の人びとの意識も変わるかもしれない。


評者、早瀬晋三の最近の著書・編著書
早瀬晋三『すれ違う歴史認識-戦争で歪められた歴史を糺す試み』人文書院、2022年、412頁、5800円+税、ISBN978-4-409-51091-9
早瀬晋三『東南アジアのスポーツ・ナショナリズム-SEAP GAMES/SEA GAMES 1959-2019年』めこん、2020年、383頁、4000円+税、ISBN978-4-8396-0322-9
早瀬晋三『グローバル化する靖国問題-東南アジアからの問い』岩波現代全書、2018年、224+22頁、2200円+税、ISBN978-4-00-029213-9

早瀬晋三『戦前期フィリピン在住日本人職業別人口の総合的研究』(研究資料シリーズ10)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2024年3月、242+455頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできるhttps://waseda.repo.nii.ac.jp/records/2001909)
早瀬晋三『電子版 戦前期フィリピン在住日本人関係資料:解説、総目録』(研究資料シリーズ9)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2023年3月、234頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできる https://waseda.repo.nii.ac.jp/search?page=1&size=20&sort=controlnumber&search_type=2&q=4989)
早瀬晋三編『復刻版 南洋協会発行雑誌-『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』-』第1期(大正期)全12巻(龍溪書舎、2021年4月~23年1月)、第2期(昭和期)電子版(龍溪書舎、2023年12月)+『南洋協会発行雑誌(『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』1915~44年) 解説・総目録・索引(執筆者・人名・地名・事項)』(龍溪書舎、2018年1月)全2巻。
早瀬晋三編『復刻版 ボルネオ新聞』龍渓書舎、2018~19年、全13巻+『復刻版 ボルネオ新聞(1942~45年) 解題・総目録・索引(人名・地名・事項)』龍渓書舎、2019年、471頁。