松浦正孝編著『「戦後日本」とは何だったのか-時期・境界・物語の政治経済史』ミネルヴァ書房、2024年2月28日、669+xix頁、8500円+税、ISBN978-4-623-09716-6
共同研究の成果としての出版物は、ピンからキリまである。本書はピンである。まず、序章「「戦後日本」を今、問う意味」で、編著者の松浦正孝の趣旨が、充分にメンバーに伝わったことがわかる。つぎに、24章からなる各論考の巻末の注、参考文献から、各執筆者の本気が伝わってくる。似た編著書に「講座」があるが、本書の各論考は「高級概説」を超えている。そして、「あとがき」ではなく「結びにかえて」がある。最後の見出しが「「戦後日本」についての結論」で、「あとがき」を超えたからだろう。最後に、「人名・事項索引」がある。
本書の概要は、表紙見返しに、つぎのように簡潔にまとめられている。「「戦後日本」は戦前・戦争とどうつながり、どう変わったのか。そしてどのように変遷して「今」に至ったのか。本書では、政治史・外交史・経済史・政治学・憲法学といった分野の第一線で活躍する研究者が結集、これまで見過ごされて来た問題を発見し、徹底した議論と多角的アプローチにより、かつてない立体的な「戦後日本」像を描き出す。「戦後日本」に多方位から光を当て、新たな煌めきと陰影を歴史の中に定位させる壮大な共同研究の成果」。
本書は、序章、5部全24章、結びにかえて、人名・事項索引からなる。本書の構成は、「本プロジェクトは問題発見型プロジェクトであるから」、「専門分野ごとに固まらないよう、それぞれの扱う領域ごとに五部に分けて配置した」。だが、「これとは別に、本書の副題を「時期・空間・言説」の政治経済史としたように、本プロジェクトは、①「戦後」という「時期(区分)」は扱うトピックや視角から見ていつからいつまでなのか、②「日本」という「空間」はどう意識され、どう作用し、どう論じられたのか、③「戦後」を扱う学説や巷間の俗説や通念などの「言説」の裏にはどのような前提があり、それはどのような政治的主張と結びついているのか、という三点を常に意識して共同研究を進めてきた。いわば、「戦後日本」の時期・空間・言説のそれぞれに輪郭を与えることを通じて「戦後日本」を考え直そうとしてきたと言って良い。本書をそうした問題関心から読むと、章の配列通りに読むのとは少し違った読み方もできる」。
以下、3節(「2「時期」区分論の重要性」「3「戦後日本」の「空間」を論じる意味」「4「戦後日本」についての言説の再検討」)にわたって、各章の内容を紹介しながら、解説を試みている。
そして、「結びにかえて」の「「戦後日本」についての結論」では、まずつぎのようにまとめている。「「戦後日本」とは何であったのか。本書では、各執筆者がそのことを強く意識し、それぞれ自分の視角から考えた「戦後日本」の重要な論点について、事例に基づく検討を行った。本書に、結論は、ない。執筆者の意見を統一すべきものであるとも考えていない。「戦後」が遠く終わったと考えている章もあれば、未だ終わっていないとする章もある。様々な視角から見た「戦後」像を交える中で、新たな景色や気づかれてこなかった大事な論点・トピックを見つけ、これまでの「戦後日本」に関するイメージを相対化することが、当初より本書の目指すところであった」。
「もし結論らしきものを敢えて問われるならば、私たちは「戦後」に生きているが、すでに「戦後社会」、「戦後政治」、「戦後家族」などと同じ世界には住んでいない、ということであろうか。「戦後」についての共通見解はないが、「戦後」が、敗戦後数年にわたる「終戦後」の混乱期を経て、復興をめざして作られ、そして新自由主義などの中で揺らぎ次第に「ポスト戦後」に取って代わられていくというイメージは、多くのメンバーの概ね共有するものであろう」。
本書は、「戦後」を問い、「敗戦後」を問うているわけではない。編著者は、「敗戦後数年にわたる「終戦後」の混乱期」と述べている。「敗戦後」は数年で終わったのだろうか。「戦後」の前に「敗戦後」について考える必要はないのだろうか。日本の「戦後」は、「敗戦」意識の欠如からはじまったことが、本書からもいえるということなのだろうか。「戦後」と書くとき、なるべく「敗戦後」と書くようにしたら、人びとの意識は変わるのだろうか。
評者、早瀬晋三の最近の著書・編著書
早瀬晋三『すれ違う歴史認識-戦争で歪められた歴史を糺す試み』人文書院、2022年、412頁、5800円+税、ISBN978-4-409-51091-9
早瀬晋三『東南アジアのスポーツ・ナショナリズム-SEAP GAMES/SEA GAMES 1959-2019年』めこん、2020年、383頁、4000円+税、ISBN978-4-8396-0322-9
早瀬晋三『グローバル化する靖国問題-東南アジアからの問い』岩波現代全書、2018年、224+22頁、2200円+税、ISBN978-4-00-029213-9
早瀬晋三『戦前期フィリピン在住日本人職業別人口の総合的研究』(研究資料シリーズ10)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2024年3月、242+455頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできるhttps://waseda.repo.nii.ac.jp/records/2001909)
早瀬晋三『電子版 戦前期フィリピン在住日本人関係資料:解説、総目録』(研究資料シリーズ9)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2023年3月、234頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできる https://waseda.repo.nii.ac.jp/search?page=1&size=20&sort=controlnumber&search_type=2&q=4989)
早瀬晋三編『復刻版 南洋協会発行雑誌-『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』-』第1期(大正期)全12巻(龍溪書舎、2021年4月~23年1月)、第2期(昭和期)電子版(龍溪書舎、2023年12月)+『南洋協会発行雑誌(『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』1915~44年) 解説・総目録・索引(執筆者・人名・地名・事項)』(龍溪書舎、2018年1月)全2巻。
早瀬晋三編『復刻版 ボルネオ新聞』龍渓書舎、2018~19年、全13巻+『復刻版 ボルネオ新聞(1942~45年) 解題・総目録・索引(人名・地名・事項)』龍渓書舎、2019年、471頁。
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