恒川惠市『新興国は世界を変えるか-29ヵ国の経済・民主化・軍事行動』中公新書、2023年1月25日、244頁、860円+税、ISBN978-4-12-102734-4
本書は、つぎのパラグラフではじまる。「本書は、新興国の登場と成長、そして、それが世界にとって持つ意味を、正面からとりあげて分析する」。
つづけて、本書のキーワードである「新興国」について、つぎのように説明している。「新興国は、1980年前後に、国際機関や国際投資家が「新興工業国」や「新興市場国」の名で呼び始めた国々である。これらの国々は、発展途上国の中でも、急速な工業化や豊富な天然資源の輸出によって、特に顕著な成長を遂げつつあるか、そうなる可能性が高かったので、国際金融界が「新興市場」として投資を奨励したのだった。最初は、ブラジル、メキシコ、アルゼンチン、チリといったラテンアメリカ諸国と、韓国、台湾、ASEAN諸国、中東産油国などが中心だったが、1990年代以降中国、インド、そしてソ連邦崩壊後のロシアが加わった」。
本書は、はじめに、序章、全7章、終章、あとがきなどからなる。まず、序章「新興国とは何か」で「確固とした基準を示し、29の「新興国」を特定する」。そのうえで、第1章「経済発展をどう説明するか」では「経済発展について」、第2章「福祉国家形成の試練」では「社会福祉国家の形成について、これまでの経緯を明らかにし、今日新興国が直面する課題が何かを分析する」。
第3章「民主化のゆくえ」と第4章「政治体制変動の実態」は、「利害調整が行われる場である政治体制と体制変動に焦点をあてる。1980年代以降、新興国全体としては、権威主義体制から民主主義的要素の多い体制への転換が進んだが、21世紀になって民主化のペースが鈍化し、2010年代には再権威主義体制化が顕著に見られるようになった。こうした動向の分析を、第3章では新興国全体の特徴に焦点をあてて、第4章では個々の国や地域の実態に即して行う」。
第5章「経済的・社会的発展の政治的条件は何か」は、「第1章~第4章の議論を総合して、新興国において経済発展と社会福祉拡充を可能にする政治的条件が何かを論じる重要な章である。まず政治体制の違いが持つ意味を分析し、次いで、同じ政治体制の中で、異なった政治制度や官僚制が経済的・社会的発展に及ぼす影響に触れる」。
第6章「国際関係への関与と挑戦」と第7章「新興国は世界を変えるか」は、「焦点を新興国の対外関係に移して、新興国の行動が世界経済や安全保障環境に及ぼしつつあるインパクトを論じる。先進国が中心となって維持してきた「自由主義的国際主義」の世界秩序に対して、中露は「国家主義的自国主義」とでも呼ぶべき新しい秩序原理を提示するに至っている。二つの世界秩序の間にはグレーゾーンがあり、他の新興国指導者は、そのあいまいさを利用して最大限の経済的・政治的利益を得ようとしている」。
そして、終章「日本は新しい世界とどう向き合うか」のテーマを、つぎのようにまとめている。「第二次世界大戦後の日本は、「自由主義的国際主義」秩序の申し子のような存在であった。その秩序が揺らいでいる今日、日本は世界の中でどう振舞うべきか、特に世界での重要性を増している新興国の動きに、どう対処すべきか」。
終章では、まず「新興国の経済的重要性」で、「米国とEUのシェアは1998~2000年の42%から2018~20年の27%へと激減している」と指摘し、つぎに「国家主義的自国主義への対応」で、「「国家主義的自由主義」の潮流が顕著」となるなか、日本は「世界の中での立ち位置を確かめる必要に迫られている」と述べている。
「日本の選択肢」は、「第一に欧米諸国自身が自国主義に陥ることがないように説得する必要がある」。「第二に、多くの新興国が権威主義体制を持っていることへの対応を考えなければならない」。「第三に、新興国の多くがあいまい昧な態度をとる理由の一つは、経済的利益の確保であるので、日本は欧米諸国と協力して、これら諸国の経済的期待に応える必要がある」。
そして、最後の「何が必要か」で、つぎのように述べて終章を結んでいる。「新興国の経済発展は、日本が彼らとの経済関係の緊密化を通して発展することに寄与し、日本が「自由主義的国際主義」秩序の下で平和と繁栄を享受することに貢献してきた。しかし同時にそれは、「国家主義的自由主義」という鬼子を産みだした。日本が「自由主義的国際主義」に同調する先進国や新興国との協力関係を深めることで、「国家主義的自由主義」を抑止するためには、経済・社会政策や国民の認識を変えていくことや、その方向性について、新しい国内的合意を形成することが必須なのである」。
本書からも明らかなように、「国家主義的自由主義」新興国のなかには、数々の問題があるようにみえながら、経済発展している国ぐにがある。その理由のひとつは、「自由主義的国際主義」先進国が、その体制が生み出すものを全否定することなく、享受していることだろう。結果として、「国家主義的自由主義」体制を支えていることになる。享受せざるを得ないことに「自由主義的国際主義」の問題がある。それがなになのかを追求し、「国家主義的自由主義」に頼らなくてもいい体制を築いていかなければならないだろう。
評者、早瀬晋三の最近の著書・編著書
早瀬晋三『すれ違う歴史認識-戦争で歪められた歴史を糺す試み』人文書院、2022年、412頁、5800円+税、ISBN978-4-409-51091-9
早瀬晋三『東南アジアのスポーツ・ナショナリズム-SEAP GAMES/SEA GAMES 1959-2019年』めこん、2020年、383頁、4000円+税、ISBN978-4-8396-0322-9
早瀬晋三『グローバル化する靖国問題-東南アジアからの問い』岩波現代全書、2018年、224+22頁、2200円+税、ISBN978-4-00-029213-9
早瀬晋三『戦前期フィリピン在住日本人職業別人口の総合的研究』(研究資料シリーズ10)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2024年3月、242+455頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできるhttps://waseda.repo.nii.ac.jp/records/2001909)
早瀬晋三『電子版 戦前期フィリピン在住日本人関係資料:解説、総目録』(研究資料シリーズ9)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2023年3月、234頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできる https://waseda.repo.nii.ac.jp/search?page=1&size=20&sort=controlnumber&search_type=2&q=4989)
早瀬晋三編『復刻版 南洋協会発行雑誌-『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』-』第1期(大正期)全12巻(龍溪書舎、2021年4月~23年1月)、第2期(昭和期)電子版(龍溪書舎、2023年12月)+『南洋協会発行雑誌(『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』1915~44年) 解説・総目録・索引(執筆者・人名・地名・事項)』(龍溪書舎、2018年1月)全2巻。
早瀬晋三編『復刻版 ボルネオ新聞』龍渓書舎、2018~19年、全13巻+『復刻版 ボルネオ新聞(1942~45年) 解題・総目録・索引(人名・地名・事項)』龍渓書舎、2019年、471頁。
早瀬晋三「戦前期日比混血者の「国籍」について」『アジア太平洋討究』第49号(2024年10月)pp.1-17. https://www.jstage.jst.go.jp/article/wiapstokyu/49/0/49_1/_pdf/-char/ja
早瀬晋三「『南洋日日新聞』(シンガポール、1914-41年)を読むための覚書」『アジア太平洋討究』第48号(2024年3月)pp.1-66. https://www.jstage.jst.go.jp/article/wiapstokyu/48/0/48_1/_pdf/-char/ja
早瀬晋三「消える近代日本・東南アジア関係史研究-アジア史のなかの東南アジアを考える」『史學雜誌』第133編第7号(2024年7月)pp. 43-46.
早瀬晋三[書評]:太田出・川島真・森口(土屋)由香・奈良岡聰智編著『領海・漁業・外交-19~20世紀の海洋への新視点』(晃洋書房、2023年)『社会経済史研究』Vol.90, No.2(2024年8月)pp.160-64.
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