森貴信『スポーツビジネス15兆円時代の到来』平凡社新書、2019年6月14日、230頁、840円+税、ISBN978-4-582-85915-7

 2019年9月20日、ラグビーワールドカップがはじまり、日本は初戦の対ロシア戦を逆転で勝利した。これを皮切りに、2020年は東京オリンピック・パラリンピック、21年はワールドマスターズゲームが日本で開催され、世界的な大会が3年つづく「ゴールデン・スポーツイヤーズ」がやってきた。日本政府も『日本再興戦略2016』のなかでスポーツの成長産業化をうたった。  本書の内容は、表紙見返しでつぎのようにまとめられている。「長らく「体育」「ボランティア」「アマチュアリズム」を標榜してきた日本のスポーツ界が、いま揺れている-。今後、その市場規模は現在のおよそ3倍、2025年には15兆円にまで達するという。令和時代を迎えた現代の日本社会において、私たちの暮らしや生き方はどのように変わるのか。わかったようで、わからなかったスポーツとビジネスの関係。これから起こること、できることを鮮明に説く」。

 本書の著者、森貴信はつぎのように「著者紹介」されている。「1969年長崎県生まれ。トーメン、トヨタ自動車を経て、2005年V・ファーレン長崎の立ち上げに参画。その後、サガン鳥栖、埼玉西武ライオンズを経て、現在はラグビーワールドカップ2019年組織委員会チケッティング・マーケティング局局長(チケッティング担当)。また株式会社マグノリア・スポーツマネジメント代表取締役として、スポーツ特化型クラウドファンデング「FARM Sports Funding」も運営する。JFAスポーツマネジャーズカレッジ2期生。早稲田大学招聘研究員。慶応ビジネススクールMBA(2003年)」。

 いま担当しているラグビーワールドカップは、オリンピック・パラリンピック、サッカーのFIFAワールドカップについで、世界第3位のメガスポーツイベントされる。だが、その経済効果は、サッカーを上まわるという。その理由を、つぎのように説明している。「ラグビーワールドカップの大きな特徴は、この訪日外国人の数が、他のイベントと比べて、非常に多いと予想されているということである。ラグビー発祥の地イギリスを中心とするヨーロッパでは、ラグビーは富裕層向け、サッカーは労働者階級向けのスポーツとして発展してきた歴史がある。今回のラグビーワールドカップでは、ラグビーが大好きで比較的裕福な富裕層が日本各地には長期間滞在するとみられている」。「これらの層については、どの国でワールドカップが開催されても、世界中を旅して必ずワールドカップを見るような人々であり、ある一定数の決まったファンたちが、4年に一度、固まって世界中を移動するようなイメージなのだ」。ラグビーはサッカーより体力の消耗が激しく、試合と試合との間隔が長く、今回も44日間に及ぶ。ファンの滞在日数も長くなる。

 本書の意図を、著者は「はじめに」でつぎのように述べている。「これから本書で紹介する事例を追うことで、スポーツと普段の生活が想像以上に密着する時代が迫っていることを実感するかもしれない。その現象は一つの生活圏を形成するほど大きな可能性を含んでいると言ってもよい」。「とすれば、どのような環境が待っているのか、またどのように家族の中に入り込み、親しい隣人たちとの関係に関わってくるのか、そうしたスポーツとそれを取り巻く私たちの未来を本書で提示してみたい。一体スポーツが切り結ぶ社会が成立するために、ヒト・モノ・カネのそれぞれがどのように動き、流れていくのか、なるべく具体例を提示しつつ、おもに働く/稼ぐ=居心地の良いスペースが作るという視点を意識しながら来るべきヴィジョンを描きたいと思う」。

 そして、「おわりに」でつぎのように結論している。「人々がインターネットを利用するのと同じように、30年後にはすべてのビジネスが何らかの形でスポーツにつながり、いつの間にか、スポーツビジネスとそれ以外のビジネスとの境界がなくなっていて、「最近、スポーツビジネスという言葉を使わなくなったよね」とみんなが言っている日常がやってくるのではないだろうか」。「これからはスポーツそのものよりも、スポーツを通じて何をするかが重要になる。〝スポーツ × ○○○〟といった具合だ。考えれば考えるほど可能性は無限にある。そう考えれば、もっと多くの人がスポーツに関わるチャンスが出てくるだろう。そこではスポーツが潤滑油となり、ハブ(結節点)にもなる。もちろん、誰もが参加できるプラットフォームとしても使える。では、スポーツに何を掛け合わせれば良いのか。どんなビジネスが最適なのだろうか。実はそれらの大きさ次第で「スポーツビジネス15兆円時代」というハードルは、わりとあっさり超えていくのかもしれない」。

 ラグビーワールドカップでも、世界各地の在外公館は在留邦人を集めて、いっしょに観戦するイベントを開催している。スポーツは、歴史上、戦略的に使われてきた。ナショナリズムをあおり、戦意昂揚に利用してきた。そんなスポーツに政府が絡んでくると妙な方向にいきはしないかと、歴史家は危惧する。全体主義に走り、排他的になり、それにビジネスが便乗する危険性がある。そんなことにならなければいいのだが・・・。