柴田善雅『南方共栄圏の財政と金融』ゆまに書房、2025年12月1日、898頁、15000円+税、ISBN978-4-8433-7152-7

 「傍証できない」「確認できない」など「...できない」ということばが、本書では頻出する。それは、本書が資料的に網羅したことをあらわしており、具体的に「あとがき」で資料収集過程が説明されている。また、巻末の「参照文献」に著者の単著・論文が36点あげられていることから、本書が「著者積年にわたる研究の集大成」であることがうかがえる。

 その「あとがき」冒頭で、本書の目的がつぎのように述べられている。「本書は日本敗戦すなわち南方共栄圏消滅80年となる2025年に、アジア太平洋戦争期南方占領地を中心とし、仏領インドシナ・タイも視野に入れた地域の、財政と金融の実態を解明し、その作業結果を出版するものである」。

 そして、その成果を、同じく「あとがき」でつぎのように自負している。「本書の公表により、南方共栄圏の各占領地、仏領インドシナ、タイ、東チモールを含めた財政と金融の実態を、全体を俯瞰しつつ各地域相互に比較したうえで検討することが可能となった。とりわけ乙地域を含めた各地域の通貨発行残高統計を踏まえた財政体制と、南発を含む日系金融機関のみならず、地場系金融機関の存在とその業態まで視野を広げて解明できたため、南方共栄圏内財政金融の全体像に接近できた」。

 因みに本書では、「南方共栄圏」を「歴史的地域概念を現す用語として採用し」、著者は「日本が1941年12月開戦で占領下に置いた地域、すなわち甲地域のみならず、介入を加えた地域、すなわち乙地域も含む」。「本書の行論では、「東南アジア」との地理的概念を使用しない」。

 本書は、序章、全5章、終章などからなる。「本書の概要」は、序章「南方共栄圏の財政・金融研究の課題と方法」の最後の第4節にある。第1章「仏領インドシナ軍事展開に伴う財政金融措置」では、「1941年12月開戦前の仏印への武装進駐に伴う軍事費支出と現金調達体制を検討する」。第2章「南方共栄圏の軍事財政」では、「南方共栄圏各地域における軍政財政を各地域ごとに解明し、臨軍会計の南方関係支出を検討する」。第3章「南方共栄圏金融体制の構築」では、「1943年3月までの軍票発行期における南方共栄圏の金融体制の制度構築とその実態を点検する」。第4章「南方共栄圏金融体制の拡大と解体」では、「南発の発券金融機関化の時期の金融制度を分析する」。第5章「南方共栄圏為替決済体制」では、「南方共栄圏の為替決済制度及び政策を解説し、分析を加えた」。終章「南方共栄圏の財政と金融の解体と結語」では、「各章で展開した論点を再確認したうえで、序章で設定した課題への到達点を確認し、全体を通じた結語を示す」。

 本書を通読しても、本書の全体像がすぐにわかるわけではない。一覧表はないが、本文中に多数の表があり、その表と付きあわせて本文を理解するには時間がかかる。16頁におよぶ「機関名索引」から地域ごとに理解を深めていくのがいいのではないかと思う。つまり、本書は事典としても使えるということである。本書の「...できない」が、ひとつひとつなくなる新たな研究が出てくることを期待する。

 なお、本書から「経済的支配の実態」が明らかになるが、そのために各金融機関は、どのような情報を欲したのか。それがわかる南方開発金庫が発行した調査資料200点余のうち150点余が編集・復刻されている(早瀬晋三編集・解説『編集復刻版 南方開発金庫調査資料(一九四二~四四年)』全17巻+附巻、龍溪書舎、2015年)。


評者、早瀬晋三の最近の著書・編著書
『アジア太平洋討究』第52号(早瀬晋三教授退職記念号)、2026年1月、462頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできるhttps://www.jstage.jst.go.jp/browse/wiapstokyu/list/-char/ja)

早瀬晋三『すれ違う歴史認識-戦争で歪められた歴史を糺す試み』人文書院、2022年、412頁、5800円+税、ISBN978-4-409-51091-9
早瀬晋三『東南アジアのスポーツ・ナショナリズム-SEAP GAMES/SEA GAMES 1959-2019年』めこん、2020年、383頁、4000円+税、ISBN978-4-8396-0322-9
早瀬晋三『グローバル化する靖国問題-東南アジアからの問い』岩波現代全書、2018年、224+22頁、2200円+税、ISBN978-4-00-029213-9

早瀬晋三『戦前期東南アジア海域における日本人漁業活動の基礎資料』(研究資料シリーズ12)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2026年2月、179頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできる)
早瀬晋三『1912年のシンガポールの日本人社会-『南洋新報』4-12月から-』(研究資料シリーズ11)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2025年2月、159頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできるhttps://waseda.repo.nii.ac.jp/records/2004934)
早瀬晋三『戦前期フィリピン在住日本人職業別人口の総合的研究』(研究資料シリーズ10)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2024年3月、242+455頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできるfile:///C:/Users/shaya/Downloads/KenkyuShiryoSeries_10_02.pdf)
早瀬晋三『電子版 戦前期フィリピン在住日本人関係資料:解説、総目録』(研究資料シリーズ9)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2023年3月、234頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできる https://waseda.repo.nii.ac.jp/records/78131)電子版の発行は中止。
早瀬晋三編『復刻版 南洋協会発行雑誌-『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』-』第1期(大正期)全12巻(龍溪書舎、2021年4月~23年1月)、第2期(昭和期)電子版(龍溪書舎、2023年12月)+『南洋協会発行雑誌(『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』1915~44年) 解説・総目録・索引(執筆者・人名・地名・事項)』(龍溪書舎、2018年1月)全2巻。
早瀬晋三編『復刻版 ボルネオ新聞』龍渓書舎、2018~19年、全13巻+『復刻版 ボルネオ新聞(1942~45年) 解題・総目録・索引(人名・地名・事項)』龍渓書舎、2019年、471頁。