小松正之『日本漁業・水産業の復活戦略-最新データに拠る日経調水産業改革委員会「提言」と改正「漁業法」概説』雄山閣、2021年6月20日、175頁、2000円+税、ISBN978-4-639-02762-1
本書は、2つの「推薦の言葉」、1つの「監修者の言葉」、全2章、付篇「2018(平成30)年一部改正『漁業法』(抜粋)」、あとがきからなる。
2つの「推薦の言葉」は、豊洲市場協会長/中央魚類株式会社代表取締役会長 伊藤裕康と日本水産株式会社代表取締役社長 的埜明世による。「監修者の言葉」は一般社団法人日本経済調査協議会「第2次水産業改革委員会」委員長 元農林水産事務次官 高木勇樹による。
第1章「日本漁業・水産業の現状と課題・再生策について」の最後に、つぎの「本書の目的」がある。「漁業・水産業は日本人にとって大切な産業である。日本人にとって大切なたんぱく源を供給する。また、日本人にとって心のよりどころであり、精神的な安定感を支え、魚食の文化的豊かさと魚食文化の多様性を提供しているのが日本の漁業と水産業である。そして、漁業と水産業はとても小さくなった産業(1.46兆円:2019年)であるが、流通加工業とスーパーマーケット・小売店での販売と、レストラン・居酒屋・寿司店での売り上げと雇用を含めれば28兆円の規模に達する膨大な産業である。そのほかにも、海洋と生物資源は美しい景観と日本の国土の原風景と日本人の源を提供する。また、海と魚は海水浴や釣りなどのレジャーの場も提供する。600~900万人の釣り人がいるが、この人たちも海洋生物資源の豊かさを享受している」。
「漁業の改革と将来は、このようなあらゆる日本人にとって大切なのである。しかし、漁業者も国民も活発ではない。しかし、正しい情報が提供されればこれは改善される。今も漁業・水産業の衰退は継続している。かかる状況に対して、漁業と水産業の明日への理解を促進することを目的に編集・執筆されたのが本書である。誰もが手に取ってわかる、漁業・水産業の将来への実践的な理解書として役割を果たすことを目的とした。読者の座右において執務参考書として、ご活用いただきたい」。
第2章「日経調第2次水産業改革委員会の最終報告と提言」は、つぎの第3節「我が国の漁業・水産業のあるべき姿」「(3)あるべき姿での漁業・水産業の経済指標」で総括している。「漁業・養殖業生産量は、5年後には431万トンの1.2倍の510万トン(うち養殖業は120万トン)、10年後には1.5倍の650万トン(うち養殖業は150万トン)を目標とする」。「漁業・養殖業生産金額は、5年後には1.6兆円の30%アップの約2兆円(うち養殖業は6,500億円)、10年後には2倍の3兆円(うち養殖業は1兆円)を目指す」。「水産加工品の生産量は、2017年では293万トンで3.4兆円であるが、これらも漁業・養殖業生産量と同様に、生産量の増大と、生産金額の増大を目指す」。
「卸売市場の取扱量は、国内の漁業・養殖業生産の増大と品質の向上、その効果による輸入水産物の低下などにより、5年後には現在の1.2倍に増加し、10年後には1.5倍を目指す。例えば、東京都中央卸売市場豊洲市場では39.1万トン(2017年)の取扱量であるが、それを5年後には約48万トン、10年後には60万トンを目指すこととなる。これらの達成は、我が国の水産資源管理と養殖業の制度と生産システムの近代化が図られ、流通業者による積極的な水産資源管理の推進活動が前提となる」。
日本の近代漁業は、技術力向上に努め、その結果、濫獲、漁場の荒廃をもたらした。優れた技術を持つ漁民は、新たな漁場を求めて沿岸漁業から沖合漁業、さらに他県、北洋、植民地となった朝鮮、台湾、内南洋(太平洋)、そして外南洋(東南アジア)、インド洋、アフリカ沿岸、南極まで進出して遠洋漁業に従事した。政府は、海外進出の先兵となる漁業活動を全面的にバックアップし、水産講習所などを通して技術力向上を支援しただけでなく、造船、航海士養成などにも多額の補助金を注いだ。漁業活動においても、濫獲による一時的「不漁」にたいして補助金を投入し、持続可能な漁業への道筋を示さなかった。このように、日本の近代漁業は自立的産業として発達することなく、略奪的、侵略的漁業として発展した。
このような漁業政策は、戦後、そして1970-80年代に200カイリ排他的経済水域内に押し込められてからも変わらず、縮小する補助金で命脈をつなぎ、今日までごまかしごまかしつづけ、自立した漁業への改革を怠ってきた。本書で、日本漁業の衰退の原因が追求され、改革が提言されているが、それは日本の近代漁業の歴史を理解していれば、わかっていたことだった。遅きに失したとはいえ、それに気づいたのであれば、それを実践するためにどうすればいいのかを考えるのが、つぎの段階である。そのためには、明治以来の日本の近代漁業の成り立ちを充分に理解する必要がある。そうでなければ、既得権益にしがみつく人びとによって妨害されることになるだろう。
もうひとつ問題なのは、日本国内で漁業改革が進み、自立した産業の体裁が整えられても、問題は解消されないということである。海外から掠奪漁業・奴隷労働など「違法操業」によって獲られた安価な魚が日本市場に流れ込んでくれば、国内漁業はもたない。かつて略奪的・侵略的漁業をおこなって、海外の漁場を荒らし、魚の市場価格を混乱に陥れた日本には、国際漁業の秩序を保つ責任がある。国内だけでなく、国際的な「提言」も必要である。
評者、早瀬晋三の最近の著書・編著書
『アジア太平洋討究』第52号(早瀬晋三教授退職記念号)、2026年1月、462頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできるhttps://www.jstage.jst.go.jp/browse/wiapstokyu/52/0/_contents/-char/ja)
早瀬晋三『すれ違う歴史認識-戦争で歪められた歴史を糺す試み』人文書院、2022年、412頁、5800円+税、ISBN978-4-409-51091-9
早瀬晋三『東南アジアのスポーツ・ナショナリズム-SEAP GAMES/SEA GAMES 1959-2019年』めこん、2020年、383頁、4000円+税、ISBN978-4-8396-0322-9
早瀬晋三『グローバル化する靖国問題-東南アジアからの問い』岩波現代全書、2018年、224+22頁、2200円+税、ISBN978-4-00-029213-9
早瀬晋三『戦前期東南アジア海域における日本人漁業活動の基礎資料』(研究資料シリーズ12)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2026年2月、179頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできるhttps://waseda.repo.nii.ac.jp/records/2007415)
早瀬晋三『1912年のシンガポールの日本人社会-『南洋新報』4-12月から-』(研究資料シリーズ11)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2025年2月、159頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできるhttps://waseda.repo.nii.ac.jp/records/2004934)
早瀬晋三『戦前期フィリピン在住日本人職業別人口の総合的研究』(研究資料シリーズ10)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2024年3月、242+455頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできるfile:///C:/Users/shaya/Downloads/KenkyuShiryoSeries_10_02.pdf)
早瀬晋三『電子版 戦前期フィリピン在住日本人関係資料:解説、総目録』(研究資料シリーズ9)早稲田大学アジア太平洋研究センター、2023年3月、234頁。(早稲田大学リポジトリからダウンロードできる https://waseda.repo.nii.ac.jp/records/78131)電子版の発行は中止。
早瀬晋三編『復刻版 南洋協会発行雑誌-『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』-』第1期(大正期)全12巻(龍溪書舎、2021年4月~23年1月)、第2期(昭和期)電子版(龍溪書舎、2023年12月)+『南洋協会発行雑誌(『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』1915~44年) 解説・総目録・索引(執筆者・人名・地名・事項)』(龍溪書舎、2018年1月)全2巻。
早瀬晋三編『復刻版 ボルネオ新聞』龍渓書舎、2018~19年、全13巻+『復刻版 ボルネオ新聞(1942~45年) 解題・総目録・索引(人名・地名・事項)』龍渓書舎、2019年、471頁。
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