長谷川健二『日本資本主義と地域漁業-三重県漁業の歴史に見る』北斗書房、2024年10月29日、360頁、4000円+税、ISBN978-4-89290-072-3

 本書出版のきっかけは、著者が「地域という場から漁業という産業の成り立ちと今日に至るプロセスを総体として明らかにする必要性を感じたからで」、つぎのようなことを意識していた。「とくに近代の漁業の歴史は、日本資本主義体制の確立・変遷との関係性が強く投影されている。すなわち鳥瞰的なマクロの視点から地域のミクロの動きを見ることである。さらに地域のミクロの視点から全体マクロの視点では隠れた動きを抉り出す必要がある。こうした作業を経て初めて地域漁業の歴史の全体像を明らかに出来ると考え」た。本書は、その「抉り」出した成果である。

 先行研究からは、つぎのことがわかった。「三重県漁業・漁村の歴史を全体的な日本資本主義と漁業という構造的規定性から地域漁業の発展との関係で論じた著作・論文は、私が知る限り、これまでのところ見当たらない。三重県漁業・漁村を扱った諸著作、諸論文は対象とする時期、地域を限定した個別分析がほとんどであり、社会学的・民俗学的なものが多く、経済学を土台に据えた構造分析ではない」。

 本書の視点と方法は、つぎの3点である。「第一に、地域漁業と言う概念」を、著者は「次のように考えている。漁業生産と漁民生活において自然条件を生かした多様な性格を持つ“場としての地域の漁業”、あるいは“地域産業(必ずしも資本制的企業を指しているものではなく)としての漁業”の展開であり、本著では近世漁業の形成から近代漁業の成長-発展-戦時体制下の危機、そして戦後の復興-成長-縮小-構造的危機という今日に至る長期間の歴史的な地域漁業のプロセスを日本資本主義の展開と国内漁業の規定性において把握するという方法をとった」。

 「第二には、地域漁業が持つ国内漁業一般からの規定性=影響を受ける側面と地域の独自性、特殊性に焦点を当てた。こうした“一般性と特殊性”というアプローチから地域漁業の変容を考察した。とくに三重県漁業と漁村は、前述した明治以降の近代化の中で日本資本主義の工業集積・集中からの影響を強く受けた北部の伊勢湾地帯、リアス式の複雑な岩礁地帯の入り江を利用した、あま漁業の伝統的漁業、また様々な沿岸漁業も営まれ、カツオ一本釣漁業、明治以降は海外市場への輸出産業として発展を遂げた真珠養殖漁村が存在する志摩・度会地帯、かつては村落共同体的なブリ定置網、ボラ漁業、および志摩・渡[度]会地域と同様なカツオ一本釣り漁業などの特色ある熊野灘地帯などの、次に述べる3つの漁業地帯が存在し、明治以降の近代化の過程においては、その歴史的変容が際だっている」。

 「第三は、漁業生産の中心を小規模な生業的漁民層に置いていることである。その理由は、近世の幕藩体制においては言うまでもなく、彼らが生産の主体であり、明治以降の日本の近代化=資本主義化における資本制漁業の成立(ただし、日魯漁業、大洋漁業、日本水産などのビッグスリーは財閥系の別な系譜であり除く)の発酵母であり、現在においても経営体数の9割以上を占める漁業生産の担い手であるからである。歴史的経済的範疇として考察した場合において農業と同じく家族労働力の再生産を目的とした小生産者として性格づけることができる」。

 「本書で具体的な対象となる漁業地帯は、明治以降の近代化の中で行政区分として確立する三重県の伊勢湾の北勢、中・南勢(度会郡の伊勢湾内海側)、志摩(答志郡、英虞郡)、そして太平洋に臨む度会外海側、熊野灘(北牟婁郡・南牟婁郡)の各漁村と漁業である。こうした3つの地帯区分は、置かれた自然条件に規定され異なった漁業で成り立っており、また近世の幕藩体制の下で異なった藩支配を受けていたという事情、その後の国内漁業の資本主義化=近代化という影響の受け方も異なっていたという歴史的条件も付け加わる」。

 本書は、はじめに、時系列に全12章、むすび、あとがきからなる。むすび「三重県漁業の歴史的概観」では、つぎの見出しのもとにまとめている:「漁業・漁村の確立期-近世から近代へ-」「漁業の近代化と漁民層の分化・分解」「「昭和恐慌」から戦時体制へ」「戦後復興から確立へ」「高度経済成長下の三重県漁業・養殖業」「オイルショック・200カイリ問題と三重県漁業・養殖業」「「平成不況」下の三重県漁業・養殖業」「構造的危機=漁業経営の再生産の困難性と新たな方向」。そして、「今後、三重県の漁業・養殖業は、このような地域の特色を基盤とした対応がどのようにして生き残るかが問われていると言っても過言ではない」と結んでいる。

 本書に挿入された「明治期三重県漁村位置図」の地名から、伊勢湾に面した北部とリアス式海岸の中部、そして熊野灘の南部の顕著な違いがわかる。南部のほとんどの地名に「浦」がついており、その独自性がうかがえ、近代への対応がいかに困難であったかが想像される。

 本書から、地域だけではどうしようもない近代日本の歩みのなかの地域があり、それでも地域から発しないとどうしようもない現実があることがわかる。著者が、めざしたミクロとマクロの関係性のなかで、今後の日本の漁業を考えていかなければならない。「地域」という単位は、いまだ無視できない。


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早瀬晋三編『復刻版 南洋協会発行雑誌-『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』-』第1期(大正期)全12巻(龍溪書舎、2021年4月~23年1月)、第2期(昭和期)電子版(龍溪書舎、2023年12月)+『南洋協会発行雑誌(『会報』・『南洋協会々報』・『南洋協会雑誌』・『南洋』1915~44年) 解説・総目録・索引(執筆者・人名・地名・事項)』(龍溪書舎、2018年1月)全2巻。
早瀬晋三編『復刻版 ボルネオ新聞』龍渓書舎、2018~19年、全13巻+『復刻版 ボルネオ新聞(1942~45年) 解題・総目録・索引(人名・地名・事項)』龍渓書舎、2019年、471頁。