櫻井義秀・外川昌彦・矢野秀武編著『アジアの社会参加仏教-政教関係の視座から』北海道大学出版会、2015年3月31日、390+10頁、6400円+税、ISBN978-4-8329-6812-7
本書のキーワードは、「社会参加仏教」であり、「はじめに」冒頭で説明してある。英語のEngaged Buddhismの訳で、つぎのような定義がある。「仏教者が布教・教化などのいわゆる宗教活動にとどまらず、様々な社会活動も行い、それを仏教教義の実践化とみなし、その活動の影響が仏教界に限らず、一般社会にも及ぶという仏教の対社会的姿勢を示す用語」である。
本書では、地域研究を専門とする研究者の視点を通して、つぎの3つの観点から各国・地域の事例を考察する。「①地域社会や政治状況における社会参加の過程として位置づけ、②その影響の広がりを多様な社会的文脈を通して検証し、③それを通して宗教の社会参加の可能性を明らかにする」。そして、編著者の3人は、宗教の社会参加に関わる近年の議論から、つぎの3つの論点「近代と仏教」「「宗教」の境界」「市民社会と社会参加仏教」を通して、「本書が仏教の社会参加に注目する意図を整理」している。
本書は、3部全18章からなる。3部は「東アジア」「東南アジア」「南アジア」からなり、アジア圏のこれら3つの地域の「政教関係」を整理した章の後、各国・地域別に「宗教と社会の関わりや、その多様性について」概観し、入門書としても活用できるようにしている。
本書は、「宗教と社会」学会創立20周年記念企画の2つのセッションがもとになっている。2012年の「社会参加を志向する宗教の比較研究-エンゲイジド・ブディズム(社会参加仏教)を考える-」と13年の「国家介入的な政教関係の近代-アジア諸国における宗教と政治の比較研究-」である。これらのセッションの位置づけについて、「あとがき」でつぎのように説明している。「この二つのテーマセッションは、日本宗教の研究者と、世界各地の諸宗教を研究している文化人類学者や地域研究者が、それぞれの専門領域を超えて議論を交わせる場として企画された。各地域の既存の研究枠に限定されず、相互につながり合い、新たな発想を持った宗教研究を生み出す」。重視してきたのは、「世界を均一には見ないといった人類学や地域研究の姿勢を保ちつつも、いくつかの限定的な共通性や接点を見いだすといった点である」。
だが、それは簡単なことではなく、それぞれのセッションで異なるアプローチで挑んだ。ひとつめのセッションでは、「世俗化した社会においても、その可能性が注目されている宗教の社会貢献、とりわけエンゲイジド・ブディズム(社会参加仏教)という観点から、日本を含むアジア諸国の事例を比較し、諸地域をつなぐ研究を試みた」。ふたつめのセッションでは「仏教ならびに他の宗教が、政治・福祉・教育などの領域において強いコミットメントを求められる(つまり社会参加する)、そういった社会のあり方自体に注目した。つまり宗教の概念や特性、および宗教の参加のあり方に大きな影響を与えている。各国の政教関係といった制度レベルからの比較である」。
「はじめに」では、「1 社会参加仏教(Engaged Buddihism)について」説明した後、「2 宗教の社会活動と政治」「3 アジアの政教関係と国家の介入」で、本書で議論すべき核心部分について触れて、つぎのようにまとめている。まず、2では、「宗教が社会参加をなすという問題設定は極めて現代的なものであるが、宗教運動と政治、制度としての政教関係において社会参加の内実が規定されていることを社会関係・制度論の水準で理解しておくことが必要である」とし、「政教関係の制度」「宗教運動と政治的機会構造」「比較制度・比較宗教論」を論じ、「宗教の社会的活動を比較するためには、当該の宗教運動がその社会でどのような社会的機能を担うことが政治的機会構造で許容され、一般市民に期待されてきたのかを比較検討することも重要である」と結んでいる。
3では、「アジアの国々の多くには、市民社会の形成過程や政教分離のあり方にも、西欧近代とは異なる多様なかたちがあるという点」に注目して、「国家が掲げる宗教的理念」「世俗主義による宗教への介入」「宗教の公的役割をめぐる諸解釈」について論じ、つぎのように結んでいる。「社会参加仏教の可能性を問うには、アジア社会の現実から問いを発し、論を組み立てねばならない。そこでは政教分離と世俗化、およびその帰結である宗教の私事化だけでなく、脱私事化(少なくともカサノヴァの公共宗教論が規範的に重視するような、宗教者や宗教団体が国家や政党と結託せずに公的討議の場に参入するといった種類の理想的な脱私事化)にも、ストレートに結びつかない場合を想定しておくことが、必要ではないだろうか」。
「宗教と社会」との関わりは、地域、社会などによって刻一刻と変化し、人びとが求めるものも違ってくる。学会では、ある一定の節目ごとに整理し、論題を共有して、つぎの段階に進んでいかなければならない。それを実践した成果をまとめて出版することも大切である。この「宗教と社会」学会は、会員個々人が単著単行本を出版していることから、こういった企画の議論も深まる。また、本書で明らかなように国・地域的にも網羅的に把握していることから、議論を相対化することもできる。いい学会だ。
本書では、地域研究を専門とする研究者の視点を通して、つぎの3つの観点から各国・地域の事例を考察する。「①地域社会や政治状況における社会参加の過程として位置づけ、②その影響の広がりを多様な社会的文脈を通して検証し、③それを通して宗教の社会参加の可能性を明らかにする」。そして、編著者の3人は、宗教の社会参加に関わる近年の議論から、つぎの3つの論点「近代と仏教」「「宗教」の境界」「市民社会と社会参加仏教」を通して、「本書が仏教の社会参加に注目する意図を整理」している。
本書は、3部全18章からなる。3部は「東アジア」「東南アジア」「南アジア」からなり、アジア圏のこれら3つの地域の「政教関係」を整理した章の後、各国・地域別に「宗教と社会の関わりや、その多様性について」概観し、入門書としても活用できるようにしている。
本書は、「宗教と社会」学会創立20周年記念企画の2つのセッションがもとになっている。2012年の「社会参加を志向する宗教の比較研究-エンゲイジド・ブディズム(社会参加仏教)を考える-」と13年の「国家介入的な政教関係の近代-アジア諸国における宗教と政治の比較研究-」である。これらのセッションの位置づけについて、「あとがき」でつぎのように説明している。「この二つのテーマセッションは、日本宗教の研究者と、世界各地の諸宗教を研究している文化人類学者や地域研究者が、それぞれの専門領域を超えて議論を交わせる場として企画された。各地域の既存の研究枠に限定されず、相互につながり合い、新たな発想を持った宗教研究を生み出す」。重視してきたのは、「世界を均一には見ないといった人類学や地域研究の姿勢を保ちつつも、いくつかの限定的な共通性や接点を見いだすといった点である」。
だが、それは簡単なことではなく、それぞれのセッションで異なるアプローチで挑んだ。ひとつめのセッションでは、「世俗化した社会においても、その可能性が注目されている宗教の社会貢献、とりわけエンゲイジド・ブディズム(社会参加仏教)という観点から、日本を含むアジア諸国の事例を比較し、諸地域をつなぐ研究を試みた」。ふたつめのセッションでは「仏教ならびに他の宗教が、政治・福祉・教育などの領域において強いコミットメントを求められる(つまり社会参加する)、そういった社会のあり方自体に注目した。つまり宗教の概念や特性、および宗教の参加のあり方に大きな影響を与えている。各国の政教関係といった制度レベルからの比較である」。
「はじめに」では、「1 社会参加仏教(Engaged Buddihism)について」説明した後、「2 宗教の社会活動と政治」「3 アジアの政教関係と国家の介入」で、本書で議論すべき核心部分について触れて、つぎのようにまとめている。まず、2では、「宗教が社会参加をなすという問題設定は極めて現代的なものであるが、宗教運動と政治、制度としての政教関係において社会参加の内実が規定されていることを社会関係・制度論の水準で理解しておくことが必要である」とし、「政教関係の制度」「宗教運動と政治的機会構造」「比較制度・比較宗教論」を論じ、「宗教の社会的活動を比較するためには、当該の宗教運動がその社会でどのような社会的機能を担うことが政治的機会構造で許容され、一般市民に期待されてきたのかを比較検討することも重要である」と結んでいる。
3では、「アジアの国々の多くには、市民社会の形成過程や政教分離のあり方にも、西欧近代とは異なる多様なかたちがあるという点」に注目して、「国家が掲げる宗教的理念」「世俗主義による宗教への介入」「宗教の公的役割をめぐる諸解釈」について論じ、つぎのように結んでいる。「社会参加仏教の可能性を問うには、アジア社会の現実から問いを発し、論を組み立てねばならない。そこでは政教分離と世俗化、およびその帰結である宗教の私事化だけでなく、脱私事化(少なくともカサノヴァの公共宗教論が規範的に重視するような、宗教者や宗教団体が国家や政党と結託せずに公的討議の場に参入するといった種類の理想的な脱私事化)にも、ストレートに結びつかない場合を想定しておくことが、必要ではないだろうか」。
「宗教と社会」との関わりは、地域、社会などによって刻一刻と変化し、人びとが求めるものも違ってくる。学会では、ある一定の節目ごとに整理し、論題を共有して、つぎの段階に進んでいかなければならない。それを実践した成果をまとめて出版することも大切である。この「宗教と社会」学会は、会員個々人が単著単行本を出版していることから、こういった企画の議論も深まる。また、本書で明らかなように国・地域的にも網羅的に把握していることから、議論を相対化することもできる。いい学会だ。
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