国籍問題研究会編『二重国籍と日本』ちくま新書、2019年10月10日、234頁、820円+税、ISBN978-4-480-07257-3
びっくりした。日本がこんないい加減な国で、国籍を管轄する法務省がこんな無責任な人たちで対応していたとは。問題が起きたときに、こんな国のこんな人たちに対応されるなんて、まっぴらごめんだと思う。つまり、この少子高齢化のなかで、日本に住みたくなる人が減るということである。
本書は、2018年4月28日に日本プレスセンターでおこなわれた「『二重国籍』と日本」と題するシンポジウムでの発表をベースとしたものである。編者の国籍問題研究会は、「国籍問題や台湾問題に関心を有していたジャーナリストや弁護士らが、蓮舫氏の国籍を巡る問題が注目を集めていたころから意見交換を始めたことに端を発し、二〇一八年二月、公益財団法人日弁連法務研究財団の助成を得て、正式に発足した」。シンポジウムは、「台湾国籍問題における当事者的立場にある方たちや現在国籍を巡る訴訟を扱っている弁護士、研究者などにもかかわってもらい」開催された。
この研究会が発足したきっかけについて、「あとがき」の冒頭で、鈴木雅子(弁護士)は、つぎのように述べている。「国籍の問題には、それなりに関心や知識を持っているつもりだった。二重国籍を正面から認めようとしない政府や裁判所の論拠はおよそ説得的でなく、世界的な趨勢をみても、日本でも二重国籍は容認の方向にいずれは行くであろうと楽観してもいた」。「ところが、蓮舫氏の国籍の問題が生じたとき、台湾の歴史的経緯や外交関係が複雑に絡み、メディアの記事は一向に要領を得ず、正直に言えば、私自身はリアルタイムではついていけなかった。そうこうしているうちに、二重国籍が悪であるかのような論調がどんどん高まり、蓮舫氏がついに戸籍謄本まで公開し、二重国籍ではないと「潔白を証明」して、そのまま議論は尻すぼみになった」。「あの騒ぎはいったい何だったのか? あのままでよいのか? という疑問が、私たちが国籍問題研究会として活動を始めるきっかけとなった」。
本書は、序章「大坂なおみ選手が直面する国籍問題」、2部全7章、終章「国籍に向き合う私たち」、あとがき、からなる。第Ⅰ部「蓮舫氏問題を考える」では、「蓮舫氏の二重国籍問題をめぐる議論から浮かび上がった状況を、メディア、法制度、台湾の地位などの観点から整理した」、つぎの4章からなる:「メディアの迷走」「あらわになった国籍法の矛盾」「国際結婚と国籍」「「日台ハーフ」の中華民国国籍」。
第Ⅱ部「国籍と日本人」では、「より広く問題を捉えて、国籍問題と国籍法をめぐって日本社会が直面する問題点や、日本より先に重国籍の問題に直面しているヨーロッパの事例を紹介」した、つぎの3章からなる:「日本国籍の剥奪は正当なのか」「国籍をめぐる世界の潮流」「国籍法の読み方、考え方」。この第Ⅱ部では、「大坂選手のように生来の二重国籍とは異なるケースとして、結婚や仕事などを理由に自己の意思で外国籍を取得したとき、日本国籍を失うというケースがある(国籍法一一条一項)。これについても賛否両論があり、昨年、当事者による違法訴訟が起こされた」点についても詳述している。
そして、終章「国籍に向き合う私たち」では、「二重国籍問題を含めた国籍法のあり方について、執筆関係者と国籍問題研究会メンバーの間でコンセンサスが得られた「提言」をとりまとめている。
わたしの身近に、二重国籍者が何人もいる。わたしの所属しているアジア・太平洋研究科の修士課程の8割以上が外国籍で、2割に満たない日本国籍者のなかにも二重国籍者がいる。台湾人学生のなかには日本生まれの「ハーフ」もおり、外国籍のなかには3国籍以上を選択できた者もいる。これらの重国籍者である学生が、犯罪者とみられることに、教師として堪えられない。法務省の役人、メディア関係者ばかりでなく、一般日本国民も重国籍者のことを充分に理解していないことが、なんとも歯がゆい。これらの学生が、日本に嫌気をさして、日本を見限らないことを願うばかりである。大坂なおみ選手だけでなく、重国籍者は日本や世界をよくしていく潜在力を秘めている。それを充分に活かせる日本社会でありたい。
本書は、2018年4月28日に日本プレスセンターでおこなわれた「『二重国籍』と日本」と題するシンポジウムでの発表をベースとしたものである。編者の国籍問題研究会は、「国籍問題や台湾問題に関心を有していたジャーナリストや弁護士らが、蓮舫氏の国籍を巡る問題が注目を集めていたころから意見交換を始めたことに端を発し、二〇一八年二月、公益財団法人日弁連法務研究財団の助成を得て、正式に発足した」。シンポジウムは、「台湾国籍問題における当事者的立場にある方たちや現在国籍を巡る訴訟を扱っている弁護士、研究者などにもかかわってもらい」開催された。
この研究会が発足したきっかけについて、「あとがき」の冒頭で、鈴木雅子(弁護士)は、つぎのように述べている。「国籍の問題には、それなりに関心や知識を持っているつもりだった。二重国籍を正面から認めようとしない政府や裁判所の論拠はおよそ説得的でなく、世界的な趨勢をみても、日本でも二重国籍は容認の方向にいずれは行くであろうと楽観してもいた」。「ところが、蓮舫氏の国籍の問題が生じたとき、台湾の歴史的経緯や外交関係が複雑に絡み、メディアの記事は一向に要領を得ず、正直に言えば、私自身はリアルタイムではついていけなかった。そうこうしているうちに、二重国籍が悪であるかのような論調がどんどん高まり、蓮舫氏がついに戸籍謄本まで公開し、二重国籍ではないと「潔白を証明」して、そのまま議論は尻すぼみになった」。「あの騒ぎはいったい何だったのか? あのままでよいのか? という疑問が、私たちが国籍問題研究会として活動を始めるきっかけとなった」。
本書は、序章「大坂なおみ選手が直面する国籍問題」、2部全7章、終章「国籍に向き合う私たち」、あとがき、からなる。第Ⅰ部「蓮舫氏問題を考える」では、「蓮舫氏の二重国籍問題をめぐる議論から浮かび上がった状況を、メディア、法制度、台湾の地位などの観点から整理した」、つぎの4章からなる:「メディアの迷走」「あらわになった国籍法の矛盾」「国際結婚と国籍」「「日台ハーフ」の中華民国国籍」。
第Ⅱ部「国籍と日本人」では、「より広く問題を捉えて、国籍問題と国籍法をめぐって日本社会が直面する問題点や、日本より先に重国籍の問題に直面しているヨーロッパの事例を紹介」した、つぎの3章からなる:「日本国籍の剥奪は正当なのか」「国籍をめぐる世界の潮流」「国籍法の読み方、考え方」。この第Ⅱ部では、「大坂選手のように生来の二重国籍とは異なるケースとして、結婚や仕事などを理由に自己の意思で外国籍を取得したとき、日本国籍を失うというケースがある(国籍法一一条一項)。これについても賛否両論があり、昨年、当事者による違法訴訟が起こされた」点についても詳述している。
そして、終章「国籍に向き合う私たち」では、「二重国籍問題を含めた国籍法のあり方について、執筆関係者と国籍問題研究会メンバーの間でコンセンサスが得られた「提言」をとりまとめている。
わたしの身近に、二重国籍者が何人もいる。わたしの所属しているアジア・太平洋研究科の修士課程の8割以上が外国籍で、2割に満たない日本国籍者のなかにも二重国籍者がいる。台湾人学生のなかには日本生まれの「ハーフ」もおり、外国籍のなかには3国籍以上を選択できた者もいる。これらの重国籍者である学生が、犯罪者とみられることに、教師として堪えられない。法務省の役人、メディア関係者ばかりでなく、一般日本国民も重国籍者のことを充分に理解していないことが、なんとも歯がゆい。これらの学生が、日本に嫌気をさして、日本を見限らないことを願うばかりである。大坂なおみ選手だけでなく、重国籍者は日本や世界をよくしていく潜在力を秘めている。それを充分に活かせる日本社会でありたい。
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