齊藤一彦・岡田千あき・鈴木直文編著『スポーツと国際協力-スポーツに秘められた豊かな可能性』大修館書店、2015年3月20日、231頁、2400円+税、978-4-469-26773-0

 2013年に2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まってから、学術的にもスポーツ分野が脚光を浴びるようになってきている。だが、その全貌がわかるようなものはなかった。本書は、つぎのような経緯で企画されたことを、「はじめに」で述べている。

 「なぜスポーツを通じた国際協力が求められているのか、そこにどのような意義があるのか、そしてそれは国内外では実際にどのように展開されているのか、等々これらを体系的に捉えなおした書籍は見当たらないのが現状である。そこで、前述した十数年来の研究仲間、さらには新進気鋭の若手・中堅研究者や国際協力の現場でご活躍の方々にも執筆者となって頂き、スポーツを通じた国際協力の意義と役割、またその豊かな可能性を整理・体系化しようと挑戦したのが本書である。

 本書の内容は、表紙見返しに、つぎのようにまとめられている。「世界には、開発途上国を中心として、紛争、犯罪、貧困、人権侵害、HIV/AIDSなど、地球規模の課題(Global Issue)が存在している。スポーツは、こうした課題の解決の有効な手段として国際的に認知されつつある。しかし残念ながら、今の日本には、「スポーツを通じた国際協力」という考え方はまだ一般的ではなく、学問分野としても市民権を得ているとは言い難い。そこで本書では、スポーツを通じた国際協力がなぜ求められているのか、どのような意義があるのか、その実際はどう展開されているのか、という観点から解説する」。

 本書は、はじめに、全4章16節、10のコラム、1つの事例研究からなる。「第1章 国際協力としてのスポーツの可能性」は3節、1コラム、「第2章 スポーツを通じた国際協力の世界的動向」は3節、1コラム、「第3章 スポーツを通じた国際協力の分野」は7節、8コラム、1事例研究、「第4章 スポーツを通じた国際協力の将来展望」は3節からなる。

 残念ながら、本書には序章も終章もない。「あとがき」もない。本書が「出版構想から完成に至るまでに数年もの年月を要してしまった」のも、学問的分野として歴史が浅い領域だからだろう。

 本書では、それぞれの節のはじめに数行の「概要」があり、節を理解するのに役立っている。最後の節「スポーツを通じた国際協力に携わるには」は、筆頭編著者によるもので、本書の「結論」にかわるものとして読むことができる。つぎのように、まとめられている。「スポーツを通じた国際協力に携わるにはどうしたらよいのか。そのためには、JICAボランティアなどで開発途上国に赴き、国際協力活動に直接携わるのも一つの方法である。また、国連など国際機関での業務遂行に備えて、大学などで高い専門性を養っておくことも重要である」。

 本書で目立つのは、「スポーツを通じた」という表現である。つまり、スポーツそのものが学問として成り立たず、事例として参考にされるに留まっているということである。本書編集過程で、「用語の定義やその使い方に始まり、さまざまな箇所で議論が勃発した」のも、新しい学問領域の産みの苦しみといえる。このような議論の積み重ねによって、まず「序論」が書けるようになるだろう。「終章」が書けるようになるのは、まだまだ先のようだ。