小川真和子『海をめぐる対話 ハワイと日本 水産業からのアプローチ』塙書房、2019年9月5日、234頁、2300円+税、ISBN978-4-8273-3124-0
海外在住日本人の歴史となると、著者が日本人であれば、もちろん日本人中心の叙述になる。だが、当然のことだが、海外では日本人はマイノリティで、ハワイのような移民社会では、現地の人びととだけでなく、ほかの移民との関係がある。本書は、日本人漁民中心でありながら、「海をめぐる対話(ダイアローグ)」のなかで形成されてきたハワイ社会がみえてくる。
本書は、これまで「学術書としての性格が強かった」書籍を世に送り出してきた著者、小川真和子が、「ハワイに少しでも関心を持っている大学生や高校生、そして広く一般の方々に、日本とハワイの間の、海をめぐる対話を知ってほしいと願いながら書いたもの」である。
「ハワイへ渡った日本人の多くは、現地の砂糖キビプランテーションで働いた」ため、ハワイの日本人移民の歴史は、「「陸」の仕事を生業とする人々」中心に語られてきた。「たとえ太平洋の中央に位置するハワイが視野に入っていたとしても、その周辺の海と移民の労働や生活との関係が取り上げられることは稀であった」。著者は、陸の民と海の民が食を通してつながっていたいっぽうで、かれらの体験が大きく異なっていたことに注目した。
その違いを、著者はつぎのようにまとめている。「海の民の物語は、ホレホレ節からにじみ出てくる苦労や我慢、あるいは子どものために自己犠牲を払うといった感情よりはむしろ、地元住民の食生活を支えているという自負や、ハワイで近代的な水産業を立ち上げ、やがて砂糖キビ、パイナップル生産に継ぐ主力産業へ育て上げたことへの誇り、そして「搾取する側」に立っていたはずの人々をも取り込むしたたかさに満ちあふれている」。
「大きく変化する時代のうねりを絶えず受け止めてきた」ハワイの海に「進出した日本の海の民は、ハワイで出会ったさまざまな人々と、一体どのような対話を交わしながら生活し、家族やコミュニティを作ってきたのであろうか。そして海をめぐる対話を通して、どのようにしてハワイの水産業を育て、今日に伝えてきたのであろうか」。「本書はそのような疑問に対する答えを探るため、これまでのハワイの日本人・日系移民研究の舞台では、ほとんどスポットライトを浴びることがなかった日本の海の民を主役に据え、その周囲の人々との交流を通してハワイの水産業の諸相を描き出す歴史物語である」。
本書は、「序 海をめぐる対話のはじまり」、時系列の全5章、「結 海をめぐる対話はつづく」、および4つのコラムからなる。最後の章である「V ハワイの海の戦後」は、つぎのパラグラフで終えている。「こうしてハワイの海から姿を消していく沖縄の研修生と入れ替わるように、存在感を増していったのが、韓国人、ベトナム人、そして米本土からやってきた白人漁民であった。ハワイの海はさまざまな人種やエスニックグループに彩られながら、やがて二一世紀を迎えるのである」。
そして、「結」の見出しから、21世紀になって、どのように海をめぐる対話がつづいていったかがわかる:「ある漁民一家のハワイでの生活と仕事ぶり」「ハワイにおける産業構造の変化と漁民の多様化」「フィッシングビレッジの誕生」「変化するハワイの魚食文化」「日本の海の民の痕跡」「ハワイの「こんぴらさん」にみる海の民の文化の変遷と新たな伝統の創出」「海をめぐる対話はつづく」。
閉鎖的な「陸の民」と違って、「海の民」はたとえ「敵」からであっても知識や技術を学び、生活を向上させようとする。対話は、そのために不可欠であり、ハイブリッドな社会を築いていく。閉鎖的な社会のほうが語りやすく、文献の乏しい流動的な「海の民」は描きにくかった。「結」からは、変化する社会に対応しながら、新たな地域社会が創造されていく姿が見えてくる。そこには、「協調と排斥のなかハワイにおける水産業を育てた日本の海の民の歴史物語」が背景にある。
本書は、これまで「学術書としての性格が強かった」書籍を世に送り出してきた著者、小川真和子が、「ハワイに少しでも関心を持っている大学生や高校生、そして広く一般の方々に、日本とハワイの間の、海をめぐる対話を知ってほしいと願いながら書いたもの」である。
「ハワイへ渡った日本人の多くは、現地の砂糖キビプランテーションで働いた」ため、ハワイの日本人移民の歴史は、「「陸」の仕事を生業とする人々」中心に語られてきた。「たとえ太平洋の中央に位置するハワイが視野に入っていたとしても、その周辺の海と移民の労働や生活との関係が取り上げられることは稀であった」。著者は、陸の民と海の民が食を通してつながっていたいっぽうで、かれらの体験が大きく異なっていたことに注目した。
その違いを、著者はつぎのようにまとめている。「海の民の物語は、ホレホレ節からにじみ出てくる苦労や我慢、あるいは子どものために自己犠牲を払うといった感情よりはむしろ、地元住民の食生活を支えているという自負や、ハワイで近代的な水産業を立ち上げ、やがて砂糖キビ、パイナップル生産に継ぐ主力産業へ育て上げたことへの誇り、そして「搾取する側」に立っていたはずの人々をも取り込むしたたかさに満ちあふれている」。
「大きく変化する時代のうねりを絶えず受け止めてきた」ハワイの海に「進出した日本の海の民は、ハワイで出会ったさまざまな人々と、一体どのような対話を交わしながら生活し、家族やコミュニティを作ってきたのであろうか。そして海をめぐる対話を通して、どのようにしてハワイの水産業を育て、今日に伝えてきたのであろうか」。「本書はそのような疑問に対する答えを探るため、これまでのハワイの日本人・日系移民研究の舞台では、ほとんどスポットライトを浴びることがなかった日本の海の民を主役に据え、その周囲の人々との交流を通してハワイの水産業の諸相を描き出す歴史物語である」。
本書は、「序 海をめぐる対話のはじまり」、時系列の全5章、「結 海をめぐる対話はつづく」、および4つのコラムからなる。最後の章である「V ハワイの海の戦後」は、つぎのパラグラフで終えている。「こうしてハワイの海から姿を消していく沖縄の研修生と入れ替わるように、存在感を増していったのが、韓国人、ベトナム人、そして米本土からやってきた白人漁民であった。ハワイの海はさまざまな人種やエスニックグループに彩られながら、やがて二一世紀を迎えるのである」。
そして、「結」の見出しから、21世紀になって、どのように海をめぐる対話がつづいていったかがわかる:「ある漁民一家のハワイでの生活と仕事ぶり」「ハワイにおける産業構造の変化と漁民の多様化」「フィッシングビレッジの誕生」「変化するハワイの魚食文化」「日本の海の民の痕跡」「ハワイの「こんぴらさん」にみる海の民の文化の変遷と新たな伝統の創出」「海をめぐる対話はつづく」。
閉鎖的な「陸の民」と違って、「海の民」はたとえ「敵」からであっても知識や技術を学び、生活を向上させようとする。対話は、そのために不可欠であり、ハイブリッドな社会を築いていく。閉鎖的な社会のほうが語りやすく、文献の乏しい流動的な「海の民」は描きにくかった。「結」からは、変化する社会に対応しながら、新たな地域社会が創造されていく姿が見えてくる。そこには、「協調と排斥のなかハワイにおける水産業を育てた日本の海の民の歴史物語」が背景にある。
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