吉田純編、ミリタリー・カルチャー研究会著『ミリタリー・カルチャー研究-データで読む現代日本の戦争観』青弓社、2020年7月17日、425頁、3000円+税、ISBN978-4-7872-3469-8
本書の表紙に、つぎのような概要が載っている。「現代日本のミリタリー・カルチャーを、市民の戦争観・平和観を中核とし、それを構造的に相関する文化的要素で構成する諸文化の総体として、社会学・歴史学の立場から解明する。どの項目からも入っていける「読む事典」、ミリタリー・カルチャー研究の決定版」。
本書は、全5部、あとがき、資料「調査票・単純集計表」からなる。各部は4~10の項目からなる。最初の「1-1 なぜミリタリー・カルチャー研究をするのか」で、本書の目的がつぎのように説明されている。「戦後日本の平和主義の重大な転換点ともなりうる状況に直面しながらも、「戦争」や「軍事」のリアリティーに冷静に向き合った討議と合意形成の場の構築は未成熟であるといわざるをえない」。「その根本的な理由は、市民の戦争観・平和観の実相や、それを中核としたミリタリー・カルチャーの総体の構造といった、平和・安全保障問題についての討議と合意形成のための基礎的前提となるべき客観的知識が現代日本では決定的に不足していることにある。本書は、そのような状況に一石を投じ、今後の平和・安全保障問題をめぐる討議と合意形成の基礎になるような知見を、幅広い読者に向けて提供しようとするものである」。
著者のミリタリー・カルチャー研究会は、「1970年代末からの戦友会研究を端緒とし、戦後日本のミリタリー・カルチャーに関する社会学的研究を以後継続的に実施してきた」。本書は、「2015年と16年の2度にわたって、軍事・安全保障問題への関心が高い人々を対象に計量的意識調査(インターネット調査)を実施した」結果にもとづいている。
その問題意識は、つぎのように説明している。「戦後65年を経た2010年頃を転換点として、かつての戦友会員のように現実の戦争の記憶をもつ世代は少数派になり、代わって、①ポピュラー・カルチャー(映画、マンガ、アニメなど)、②マスメディア(ジャーナリズム)、③学校教育・社会教育(戦争博物館・平和資料館など)、そして④自衛隊やアメリカ軍の文化(広報活動やイベントによって伝達・受容されるもの)によって、戦争や軍事組織をイメージする世代が多数派になった。この世代交代は、市民の戦争観・平和観にも反作用を及ぼし、その構造的な地殻変動をもたらしているのではないか、と推測された。すなわち、現代日本のミリタリー・カルチャーは、市民の戦争観・平和観を中核として、それと構造的に相関しあう①②③④の4つの文化的要素から構成される諸文化の総体として存在しているのではないか、と考えた」。
本書のそれぞれの項目の末尾には、執筆担当者名がある。だが、執筆担当者個人の文責ではなく、研究会参加者総意に基づいていることが、「あとがき」につぎのように書かれている。「まず本書を構成する各項目と執筆者を決め、次いで各執筆者が提出した原稿を全員で読み合わせて、忌憚なく意見を述べ合い、注文を出し合った。第1稿で全員のOKが出ることはまれであり、第2稿、第3稿、ときには第4稿と改稿を重ねて、ようやく決定稿となるのが通例だった。すべての原稿が完成したのは2020年1月のことであり、それまで実に30回以上の研究会を経て、本書はようやく完成にこぎつけたわけである」。
それでも、本書は「ミリタリー・カルチャーに関わるすべての問いにまではまだ答えられていない」。「未解決の課題のなかでもとりわけ重要なのは、現代日本のミリタリー・カルチャーが現実の平和・安全保障問題とどのように関わり合うのか、ということである」。さらに、本書が基礎データとした調査は、「特に軍事・安全保障問題への関心が高い人々だけを抽出しておこなったものであり、その意識や意見は、必ずしも現代日本のすべての人々を代表しているとはいいがたい」。そこで、「2020年度内に、全国規模での無作為抽出による郵送調査の方式で、現代日本の平和・安全保障問題に関する意識調査を実施することを計画している」という。
本研究グループ内で共有されているのは、「「戦争を肯定する心理的基盤」と批判的に対峙し、最終的にはそれを掘り崩すことを目指すものである」。その調査結果は、手強いものが存在するということになるだろう。その手強いものに対峙するためにも、確固としたデータが必要である。研究グループ内だけでなく、広く共有され、多くの人びとが自分の問題として取り組むようになることを期待したい。「もし戦争が起こったら国のために戦うか」という問いにたいして、「わからない」と答えた9ヵ国平均が10.8%にたいして、日本だけが異常に多く46.1%だったことを、われわれは真摯に受けとめなければならない。
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