田中明彦・川島真編『20世紀の東アジア史 Ⅲ各国史[2]東南アジア』東京大学出版会、2020年7月29日、389頁、9800円+税(全3巻)、ISBN978-4-13-020309-8
本書は、英文タイトル20th Century East Asia: A New Historyにふさわしい「新しい歴史」である。本書は、2016年7月に開始した「日本国際問題研究所が、日本政府から受託した国際歴史共同研究事業用に準備された原稿を基礎としている」。全3巻からなり、「第一巻では、世界的な視野のもとで東アジアの国際関係の変遷を叙述分析する。第二巻と第三巻では、それぞれ東北アジアと東南アジアの各国史を、国際関係の展開を視野にいれつつ、近代国家という制度が経済や社会の発展との関連のなかでどのように生成発展してきたか[を]中心に叙述分析する」。
「今また東アジアの国際関係史と各国史を叙述することの意義」について、「はじめに」で編者はつぎのように答えている。「それぞれの時代に歴史は繰り返し書き直されなければならないから、というのが、当たり前ではあるが、その答えである」。「本書が提示したいのは、二一世紀の今日の視点から見たときに、東アジアの歴史のどこに着目して叙述し直さなければならないかということなのである」。
つづけて「二一世紀の今日の視点」について、つぎの3つの特徴をあげている。「第一に明白なことは、二一世紀初頭の東アジアは、世界の中でも経済的に最もダイナミックに発展している地域であるということである」。「一体、どのようにして、この世界で最も貧しい地域が、最もダイナミックに発展する地域に変貌をとげたのか」。
「第二に言えそうなことは、この地域が比較的にいえば「平和」であることである。二十世紀に東アジアには多くの戦争があり、世界で最も戦争の頻発した地域でさえあった。だが、一九七九年の中越戦争以来、この地域では大規模な国家間戦争は発生していない」。「どのようにして、かつては世界で最も戦争の頻発した東アジアが、不安定性をはらむとはいえ戦争や内戦がほとんど発生しない地域になったのか」。
「第三に言えそうなことは、この地域の政治体制がきわめて多様であるということである」。「自由主義的民主制という政治システムもあれば」、「共産党統治の政治システムからさまざまな変遷した政治体制もある」。「独特の権威主義体制のもと経済成長をとげた国もあり」、「軍の影響力が著しく強い国もある」。
本書は、これら3つの特徴を踏まえたうえで、「国際関係と国家(政治体制)建設という二つの観点を重視する」。
第一巻「国際関係史概論」は第1部「近代東アジア国際関係史 一九世紀から二〇世紀前期」の第1~4章と第2部「現代東アジア国際関係史 二〇世紀後期から現在」の第5~7章、全2部、7章からなる。第二巻「各国史[1]東北アジア」は、第3部「東北アジア」第8~12章、全5章からなる。第三巻「各国史[2]東南アジア」は、「第4部 東南アジア」第13~19章、全7章からなる。
第三巻は、それぞれの章でフィリピン、シンガポール、インドネシア、ベトナム、ミャンマー、マレーシア、タイの国家建設に着目して論じている。第13章「フィリピン」だけは、2つの論考からなる。問題は、おそらくここで論じられていないカンボジア、ラオス、ブルネイ、東ティモールを含めて、地域としての東南アジアをどう語るかだろう。東南アジアを語る場合は、国際関係と国家建設に加えて、地域共同体としてのアセアンの成立過程を語る必要がある。そのために、拙稿の第7章「東南アジアの国民国家形成と地域主義」が第一巻第2部にある。
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