若林正丈・家永真幸編『台湾研究入門』東京大学出版会、2020年2月29日、365+30頁、3900円+税、ISBN978-4-13-036277-1

 本書では、まず「「台湾研究」とは何かを考え、ついでその台湾研究に「入門する」とはどういうことかに触れる。最後に、日本[に]おける台湾研究に期すべきものを考える」、と編者のひとり、若林正丈は「はじめに-「相互理解の学知」を求めて」の冒頭で述べている。

 まず、「「台湾研究」とは、学術研究の一分野である「地域研究」の一領域であり、「台湾」を対象として把握しようとする地域研究である」と答えている。ついで「台湾研究に「入門する」とは、さしずめ、本書を通読して「台湾とは何か」という問いの通奏低音に耳を傾け」、台湾研究への「誘いに自らの知的好奇心を委ねてみることではないだろうか」と答えている。

 そして、「台湾研究に期すべきもの」について、「はじめに」の最後で、つぎのようにまとめている。「台湾における「主体性構築の学知」の興隆を前にして、日本における台湾研究の学知とは如何なるものなのか、否、如何なるものたろうとすべきなのか。私見ではそれは「相互理解の学知」であると考える。周知のように、現今の台湾をめぐっては、「台湾島の地政学」がまたも「前景化する」様相を呈している。二一世紀中葉に向かう東アジアの情勢は、一九世紀末から二〇世紀初頭とは異なる内容と質における、またふたたびの「帝国の学知」を求めているのかもしれない。しかし、だからこそ、戦後の平和と民主化の中でようやくのことで立ちあがってきた「帝国の学知」から「相互理解の学知」への流れはいっそう大事にすべきものではなかろうか」。

 本書は「若手からベテランまで、日台の幅広い年齢層の研究者が、それぞれが得意とする台湾理解のキーワードを解説した文章を集めた」5部全27章からなる。第Ⅰ部「日本の植民地統治が台湾社会に与えたインパクト」は10章、第Ⅱ部「「中国」との距離」は7章、第Ⅲ部「台湾の民主化以降の社会・文化」は7章、第Ⅳ部「台湾の学界から見た日本の台湾研究」は2章、第Ⅴ部「台湾研究序説のために」は1章からなる。「一つのキーワードは、「台湾という来歴」を構成するであろう、複雑に絡み合ったコンテキストの中の一束を語っている。一束というのは、一つのコンテキストはさらに見ていけば複数のコンテキストの束であるからである」。

 この「台湾という来歴」への骨太のテーマについて、若林正丈は第Ⅴ部「1 「台湾という来歴」を求めて-方法的「帝国」主義試論」のなかで、「どのようなコンテキスト、つまり、具体的な「来歴」の論述から骨太のテーマを見出すことができるのだろうか」とと問いかけ、「地域研究としての基本的問題意識からして、これらのコンテキストは、現今の台湾の姿をその「来歴」をたどるかたちで浮き彫りにできるものである必要がある」と述べている。

 つづけて、つぎのように整理している。「現在の台湾の姿を、その社会、国家、国民共同体の三点に分けて考え得るとすれば、「帝国の鑿」の視角[諸帝国の外挿国家の台湾における振る舞い]からは、①現在の台湾の主流社会、すなわち漢人の社会の形成を把握すること、②今日にも連続する近代国家の基盤的制度の形成、さらには③二つの国民帝国(近代日本と中華民国)の統治と民主化を経て形成されている国民という政治共同体の形成の過程や様態などにアプローチする必要があり、そして④これら全ての過程において底辺に置かれることとなった先住民族の歴史経験と視座の確認も行う必要があるだろう」。

 「台湾研究」は「地域研究」であるというのは、「台湾は諸帝国の周縁である」ということと関係してくる。たいていの歴史は、国の中心である首都・主都を中心に語られる。だが、台湾を語る場合の中心は、台湾の外にある。そういう状況で、主体性をもって語ることは並大抵のことではない。本書が「入門」と題して、その英訳がInvitationであることの意味がわかると、「入門」から1歩進むことができる。