山縣大樹『帝国陸海軍の戦後史-その解体・再編と旧軍エリート』九州大学出版会、2020年9月24日、272頁、4000円+税、ISBN978-4-7985-0292-2

 本書がめざしたものは、「序章 課題と視角」の最初の頁で、つぎのように記されている。「本書では、帝国陸海軍の解体と再編をめぐる一連の過程における「旧軍エリート」の動向を通じて、その特質を明らかにし、歴史的意義を解明することを主たる課題としている。念のため、誤解を避ける意味であえて付言しておくと、本書は、帝国陸海軍の解体と再編(あるいはそれを推し進めたGHQの対日非軍事化政策)それ自体の解明というよりも、その過程にみる「旧軍エリート」のさまざまな動向から、何かしらの「政治性」-次節で述べる占領史・戦後史研究の「盲点」-を抽出し、それを戦後史のなかに位置付けることを目指すものである」。

 具体的事例としては、以下の「三つの柱を主軸に検討を進める」。「①GHQの対日占領を下支えした復員組織職員の動向と役割の解明、②「経済的非武装化」としての軍人恩給廃止の衝撃とその反動、③対日再軍備過程における「旧軍エリート」の認識・活動とその影響」。

 本書は、序章、全5章、終章、あとがき、などからなる。「第一章「敗戦と武装解除」では、復員業務に従事する復員組織職員の言動を陸海軍別に検討する」。「第二章「復員組織職員の職務と役割-第二復員省における公職留任の実態-」では、帝国陸海軍軍人の復員業務への従事および復員組織への残留を制度的に補完した、公職留任の運用状況を検討する」。

 「第三章「軍人恩給の復活過程-『経済的非武装化』をめぐる衝撃と諸相-」では、軍人恩給が停止から復活にいたる政治過程を、制度をめぐる都度の政況と諸勢力の議論を関連付けながら分析していく」。「第四章「『反動』と旧軍人特権回復-軍人恩給在職年数加算制度復活を事例として-」では、「軍人恩給厚遇化による旧軍人特権の回復に奔走する軍恩全連の政治運動を扱う」。

 「第五章「旧日本海軍グループの『空海軍』再建とその遺産」では、占領期後半以降における対日占領方針の変化(経済自立化・日本再軍備、早期対日講和)、および東アジア情勢の緊迫化といった時代の転換期に際して、新海軍再建を希求していく旧日本海軍グループの「空海軍」構想を追いつつ、彼らの構想が日本再軍部に与えた影響や意義等を検討し、戦後史における彼らの適切な位置付けを行」う。

 「終章「帝国陸海軍の解体・再編と旧軍エリート」では、以上の五つの章で論じた、復員・恩給・再軍備にみる各アクターの特徴と役割、および動向分析にみる特質や位置付けを総合的に検討しつつ、本研究の総括を行う。こうした「旧軍エリート」の政治性を踏まえて、従来の占領史・戦後史研究一般で等閑視されてきた、一つの政治勢力としての彼らの立ち位置を示しつつ、その歴史的意義を明らかにし、本書の結論を述べる」。

 そして、「三つの分析軸から、アクターとしての特徴や役割、および動向分析に基づく特質の解明を試み」、「帝国陸海軍の解体と再編をめぐる「旧軍エリート」の足跡を戦後史のなかで改めてとらえ直」した結論は、つぎのようにまとめられた。「敗戦後、連合国によって完膚なきまでに打ちのめされた帝国陸海軍であっても、「旧軍エリート」が自身の勢力保持とその拡大、あるいは自己利益の獲得を模索し続ける一つの勢力として、戦後日本の政治に関与する力を持つ背景とその行使-いわば、軍隊なき国家における帝国陸海軍の「残滓」-は、以上のメカニズムに由来する。これが本書の結論である」。

 今日まで尾を引く歴史問題の大きな要因のひとつは、敗戦の張本人である帝国陸海軍が「復活」したことである。その復活の内容が問題である。たとえば、恩給は生活保障としてではなく、階級に応じて支給された。本来、階級の高い者ほど責任が重く、最低限でいいはずだが、職責を果たしたかのように支給された。このような厚遇では、「反省」というものは生じない。ほかの国ぐにでは、戦死者は個々別々に同じ大きさの墓標で平等に扱われるが、日本では集合的に扱われる。集合的に扱われることで、階級が高かった者が代表者になり、大きな顔をするようになる。本書から、諸々の問題が、終戦直後からあったことがわかる。